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七月七日
 - ocean of clouds -
 

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「宇宙は真空だから、織姫なんていやしない!彦星なんか爆発しろ!」
 約一名、別の意味でテンションを上げているのは九具津だった。 
「ちょっと九具津ちゃん、小さな子達も起きてるかもしれないんだからあまり大声でひがまないの」
 窘めたのは紅葉で、さすがに九具津も自分の行いが子供の夢を壊しかねないことに気付いて口をつぐんだ。あいかわらずその手の中にあるモガちゃん人形相手 にもごもごと何事かをつぶやいてはいたが。
「まー無理もねーよ。こんなに晴天だとさ」
 甲板の一角にしつけられた笹の木。その木々に吊された色とりどりの短冊を読むともなく見ていた葉が珍しく九具津に同意する。
「ちょっと寒いケドね」
『その恰好でその台詞は説得力ないぞ、マッスル……』
 七月七日、天気は雨。
 だが現在、パンドラ幹部及び『大人組』の一同はカタストロフィ号の甲板から雲一つない夜空の星々を見上げていた。
 何故雨が降っているのに、彼らが濡れることも雲を仰ぐこともないのか、理由は簡単である。
「今は上空三万フィートくらいといったところか」
 雲はカタストロフィ号のはるか下にある。今は甲板からそれをのぞき見ようとする者はいないが、その気になればいくらでも眼前に広がる雲海を見ることがで きるだろう。
「楽しそうだね、君たち。僕も何か飲み物が欲しいな」
 子供達に連れられて船内に戻っていた兵部が一同に声をかける。一番入り口側に立っていた真木がその要望に頷いて簡易なバーカウンターの中に入っていっ た。
「ジジイ、ガキどもは?」
「ちゃんと寝かしつけてきたよ。それと葉」
 つかつかと近づいたかと思うと問答無用で葉の耳を兵部がつまみ上げる。
「ジジイはやめろって何度言えばわかるのかなー?」
「いて、いてて、何するんだよクソジジイ!」
「おや、葉の耳はどうやら飾りらしいねえ、じゃあいらないかな?」
 今度は葉が真っ青になって兵部に嘆願する。
「ごめんなさい、俺が悪かったです、少佐」
「それでいい」
 兵部はにっこりと笑って葉の耳から手を放す。葉が両手で引っ張り上げられていた耳をかばうような仕草をしているがおかまいなしとばかりにそっぽを向く と、真木が飲み物を持ってきたのでグラスを受け取った。
 と、興味をひかれたらしく短冊のひとつに目線を向ける。
「なになに、『BASA●A秋の陣に行けますように』?書いたのは――パティだね、どういう意味だろう」
「少佐、記名がないのにサイコメトリで書いた人間を当てるのは、その……」
「たしかに、のぞきみたいで気分のいいものではないな。じゃあ相手を透視するのはやめて、っと……『にんじんが食べられるようになりますように』『おりひ め様とひこぼし様が会えますように』……純真だなあ」
 木の下のほうに下げられている短冊をいくつかピックアップすると、子供らしい願いが多く吊されている。
「じゃあ、このへんのは?」
 いつの間にか葉が空中に浮かんで、木のずっと上のほうに吊された短冊のいくつかを手に取った。
「おい、葉、それは……!」
 真木が止めたが、葉はそれらを読み上げた。
「『家内安全』『無病息災』……これって……」
 プププ、と葉が真木に目線を送る。というか、一同の目線が既に真木に集まっている。
「お前たち、何故俺を見る」
「あの高さに届くのって、アタシかコレミツか真木ちゃんぐらいだもの〜」
 まぁ、その場にいる面子にとっては、そんな真似をするのが誰なのか、は、葉でなくとも分かっていた。
「待て、じゃあそこより少し低いところの…このへんは……『少佐がいつまでも息災でありますように』『ジジイが老衰死しませんように』……」
 前者は女性らしい流麗な文字、後者は半ば殴り書きだ。
「ふうん、紅葉と葉には僕が死にそうに見えるみたいだね」
「ちょっと、個人は特定されてないはずじゃないの!?」
「そうだそうだ、俺と紅葉って限った訳じゃないだろ」
 これもまた真木の時と同じく、否定する当人たち以外は誰の仕業かはバレバレである。
「あーもーこーなったら、マッスルとコレミツと九具津さんのも探してやるからな!」
「なんというか、暴露大会ね」
 激昂する葉と対照的に紅葉はやれやれと首を振った。その脇にいた九具津がそういえば、と兵部に問う。
「少佐はなにか書きましたか?」
「僕?別に何も」
 兵部がけろりと答えると、聞きとがめた葉と紅葉がかみついてきた。
「えっ、少佐、何も書いてないの?ずるい!」
「俺たちだけ見せ物にして自分はなんもなしってどういうことよ?」
 もう既に願い事を書くという当初の目的から外れつつあるが、とどめに真木がボールペンとどこかから短冊を持ってきて無言で兵部に差し出した。
「ちょっと待ってよ、僕はもう何かに祈ったり期待したりするのはやめたんだ。他力本願な真似は僕の好むところじゃないし」
「少佐がどう思っていようと、もうあの三人、とまらないわヨ」
「しっかりバレてましたからねー」
『いいじゃないですか、好きなことお書きになれば』
「マッスル、九具津、コレミツ、君たちまで」
 結束の高さを見せつけられ、しぶしぶ短冊を受け取ると、兵部は一度瞑目してから願いを書き出した。
「さて少佐、見せて?」
「紅葉、空間固定しなくても逃げないし見せないとも言ってないから」
「どれどれ、んー?」
 紅葉が兵部の動きを止めて、葉がその手から短冊を取ると、読みあげた。
「少佐の願いは、『長生きできますように』……!?」
 最初に吹き出したのは葉だった。その笑いは伝播して、兵部以外の全員が笑い出す。
「なんで笑うのさ?僕はみんなのお願いをかなえる方向で書いたつもりだよ?」
「その位、分かってます――嬉しいからですよ」
「何が嬉しいっていうのさ、真木」
「貴方が生きたいと思ってくれていることが、です」
 胸を衝かれて一同を見渡すと、確かに笑ってはいるが、そこには一種の安堵のようなものが漂っている。
「……フンだ。」
「嬉しそうですね」
「喧しいぞ、真木」
「おーいジジイ、これ、一番上にぶら下げるけどいいよなー?」
 葉の声に、兵部は憮然とした態度のまま答えた。
「はいはい、もう、君たちの好きなようにしなよ」
「やったー!」
 葉を中心に一同が沸く。笑顔で。
「まったく、何があんなに嬉しいんだか」
 照れ隠しに呟いたが、真木からの返答はなく、ただクスリと笑う気配だけが伝わってきた。

 七月七日、雨。
 カタストロフィ号に限り、晴れ。


                                      <終>




   ■あとがき■

  当 初、台本小説にしようと思いましたが、結局「限りなく台本小説」な普通の作品になってしまいました。台本風小説にはまた機会があったらチャレンジしたいと 思っています。
 七夕ですが色っぽい話はありません。それと今年の七夕の話、ではなさそうです。今年は(今日は)どうも晴れそうなので。
 BA▲ARA秋の陣のはネタではなく、秋田市内の某武道館にて実際に吊されてあったことです。本気でびびった。
 それでは連日の更新におつきあいいただき、誠にありがとうございました。。

                  written by Yokoyama(kari) of hyoubutter 2010.07.07