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カタストロフィ号の艦橋は広い。
ナビゲーションブリッジからちょうど死角になる箇所。
そこは、少し前に葉が見つけて以来、時々やってくるようになっていた、星が一番良く見える場所だ。
多少の勾配がついていて、気をつけないと人によっては甲板に落ちるかもしれないが、空中を飛ぶことの出来る|超能力者≪エスパー≫の葉にとってそれは大
したことではない。
だからその日も、何の気なしにそこに行くと。
果たしてそこには、先客がいた。
「真木さん」
「……葉か」
横たわったまま顔も見せずに答える真木。
せっかく、自分の特等席だと思っていた場所を取られて、口惜しいから真木の隣にひっつくように並ぶ。
「何してたの、ってかここで何してるの」
「頭をクリアにするためにだ。お前は?」
「星を見に」
そうか、と気のない返事。
隣にいても、心はここにはないようだ。
そういえば今頃、日本は流星群だとか言っていたっけ。
でも自分は別にそれに焦がれたわけじゃないし、真木も違うと言っている。
今宵は月が出ていて、星を見るには適さないから、きっと言う通りの理由なのだろう。
にしても。
――頭をクリアにするため、ねえ。
彼らしい発言だ。いつも通りのもっともらしい理由。次のステージを乗り越えるための休養とか、仕事のための休息、どうせそんなところだろう。
たしかに論理的だけれど、そこに感情はないのだろうか?唐突にそんなことを思って葉は身を起こす。
真木は目線だけ一瞬こちらに寄越したけれど、そのまままた天を仰ぐ。
その横顔に近づいて、葉は真木の唇にキスをしてみる。
真木の思考にノイズを入れてみたかった。
「……」
なのに、ふりほどくでも、怒鳴るでもなく、触れただけの唇のことなど忘れてしまったかのような無反応。
「あれ?なんの反応もなしってどうよ?真木さんその年でついに不感症?」
「……お前のすることにいちいち驚いていられるか」
「じゃあ、これは?」
もう一度唇に触れる、その一瞬前に舌で歯列を割り、真木の舌に自分のそれを絡ませて。
舌に引きずられるように唇同士が合わさると、舌の裏側から、表へと巻き付かせるように動かして。そのつど歯の付け根のところを、一本一本味わうように辿
り、まさぐっては舌を吸う。軽く歯で刺激すると引っ込もうとするから、舌の横をなぞっては奥を責める。
ついついエスカレートしてしまうのは、反応の薄さに対する意地もあるけれど、でもそれだけじゃない。
ぶつぶつ言ってたくせに、キスの時にはちゃんとまぶたを閉じているところとか。
そういう態度に、拒まれていない気がしたからなのだけれど。
キスに濡れた唇を離して、葉は真木に問いかける。
「俺、うまくない?上手だなーって思わない?」
「…」
「けっこう自信あったのに」
「……」
はねのけられたら、|超能力≪ちから≫ずくで襲ってもいいとも考えたというのに、真木はなにもしない。
「ちょっと、ガン無視?」
正直、張り合いがない。
「……コメントしようがない」
ようやく聞けた感想も限りなく無味乾燥だ。
「ちぇっ」
――つまらない。
あわてて滑り落ちるくらいのことは期待していたのに。
もしくは。
その大きな体と長い腕で、自分にしがみついてきたら楽しいと思ったのに。
「というか、何でこんな……キス、してきたのかのほうが不思議なんだが」
「俺、キスしたいと思った相手にはキスするよ?男でも女でも年寄りでも子供でも犬でも猫でも。……|京介≪ジジイ≫以外ならね」
「え?」
そういえば、町中で行き会った犬などとよく鼻っ面をつきあわせているのを見かけるが、あれはそういうことか。でも、何以外?最後の方はあまりに小さな声
で、真木には聞こえなかった。
葉はくすりと笑って、月を遮って立ち上がると。
「……俺としろー……真木さんはそこが決定的に違うってこと」
真木にとってはさっぱり意味の分からない言葉を残して去っていった。
「おやぁん?今日のお洗濯当番、真木っちゃんもじゃなかったっけ?」
季節感と常識を無視したレザーパンツに、熱いのか寒いのかわからない袖なしのレザージャケットをはおり、素肌にネクタイをした男が、洗濯物を抱えた紅葉
の荷物を持ちながら横に並ぶ。
「なんか知らないけど、肩を打ったんだって。助かるわ、ありがとね、マックス」
「どういたしまして」
洗濯当番だけは男女一人ずつ、でなくとも必ず女性が入る。男性には分からない洗濯物が多いからだ。
「にしても、肩?」
「甲板の上に落ちたって」
「え?どうして?真木っちゃん飛べるのに」
「わかんない。理由を聞いても葉には言うな、の一点張りだし、少佐は行方不明だし」
少佐、という単語にマッスルが反応する。
「あ、アタシ見たわよ、真木っちゃんの部屋のトコでゆうべ。真木っちゃんのこと、少佐がけり出してたわ」
「――なにか怒らせたわけね。なるほど。じゃ少佐は真木ちゃんの部屋かぁ」
今の真木が地下のワインセラーにシュラフを持ち込んで横になっているのを知っているのは紅葉だけだ。そんな窮屈な環境じゃあ打撲も治らないだろうに、他
の開いてる部屋で休めと勧めても、消沈した顔で首を振っていた。
あの様子じゃすっかり気力をなくしていそうだから、そのうち手助けが必要だろう。
「でもどうして真木っちゃんの部屋に兵部少佐がいて、しかもそのまま真木っちゃんの部屋にたてこもってるのかしら」
自分の部屋に戻って出てこなければいい話なのに。マッスルが言っているのはそういうことだ。
きっとそれは、そこがいずれ必ず真木がやって来る場所だからなのだろう。と紅葉は思う。何が原因の諍いなのかは知らないが、待っているのだ、彼は。
「ん?葉には言うなってことはぁ、つまりぃ」
反らし気味の人差し指を、自分の唇に当てたマッスルが言うには。
「葉に知らせてくるわね。これお願い」
無責任にも紅葉の手に再び洗濯物を渡して。
「って、マッスル!」
「だって、口止めされたのは紅葉なんでしょ?ア・タ・シ・は、口止めされてないもの」
「……」
まばたき2回、そして紅葉が笑い出す。
「ぷぷっ、あははっ、わかったわ、降参」
「そゆこと。じゃ、行ってくるわね〜」
葉には言うなと言われたら、葉にだけは伝えようとするのがパンドラの流儀だ。そして、それに従ったごつい筋肉と破廉恥な姿をした男がスキップして葉の部
屋へ向かう。
時刻は9時、そろそろ葉が起きる時間になっていた。
<続>
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■あとがき■
はい真木落ちたー! ということでw
葉×真木なのか、真木×葉なのかは皆様のお考えに任せます。でも正直な話 どっちなんでしょう?
ご意見お待ちしています。
(自分でもわからないもので・・・)
葉と真木が好きな人、兵部少佐の痴話話は見たくない人はここでとどめておいてくださいまし〜。
続きはこちらです。
↓
ミチシルベ
真木×兵部。昼ドラモードにより閲覧には覚悟というか耐性とか忍耐が必要です。覚悟のある
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written by Yokoyama(kari) of
hyoubutter 2009.12.19
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