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留守番
 - house sitting -
 

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 キッチンで餃子のたねを作って皮で丁寧に形を作っていると、兵部がやって来た。
「あれ、真木、いたの?みんなと一緒に買い物に行ったのかと思ってた」
「俺は夕食当番なので留守番です」
 つい先刻、紅葉・葉をはじめとしたパンドラメンバーは街に買い出しに出てしまった。食材だけでなく、プライベートな買い物もすると言っていたので夕食の 時間までは戻って来れないだろうと思いながら真木は作業台のスツールに腰掛けて黙々と餃子を作り続ける。
 すると兵部もキッチンの奥のほうにやって来て真木に言うことには。
「僕も手伝うよ」
 そう言って手を洗いはじめた。
「いいですよ、俺一人で充分間に合いますから」
「充分~?一体何個作るつもりさ」
 兵部が具材の入った大きな鍋を親指で指さす。量的にボウルでは小さすぎて間に合わなかったため、両手で抱えてもまだ余るほどの鍋にたねとなる具材が入っ ている。
「……葉などは一度に十個くらいは食べますので」
 ボウルに作られた皮のほうもこんもりと重ねられているというよりは盛られてあり、そこから一枚ずつ取っては会話の間にも餃子を作っていく。
 もともと何事もそこそこ器用にこなす真木だが、それ故に一芸に秀でる、などの目立ったことは少なく、逆に雑用係となってしまったことに対して紅葉などは 『器用貧乏』とからかい半分同情半分で評している。そんな真木の作った餃子の隣に兵部が自分で作ったものを並べると、大きさ・形ともにほぼ大差ないものに 仕上がっている。
「……上手ですね」
「このくらいはね」
 そして黙々と二人で餃子作りをしていたのだが。
 一時間後。
「ねー真木、飽きたー」
「待ってください、もう少し、もう少しですからっ」
 言葉通りすっかり飽きてしまった兵部は宙を舞っては真木の首に抱きついたり膝の上に座り込んだりしていたが、やがてスツールに深く腰掛け直した真木の膝 の上に腰を下ろし、コアラよろしく抱きついた姿勢で落ち着いてしまった。
「もう少しって?」
「あと十……いや二十個ほどでできあがりますから」
「早くしてね」
「……はい……」
 早く終わらせてから一体何をするつもりなのかとは聞かなかったが、急かされている以上大急ぎで終わらせようと必死で餃子を作っていく。そして正確には二 十二個の餃子を作った後のこと。
「――終わりましたよ。あの、どいてくれませんか」
「えー、なんでー」
「このままでは手が洗えません」
 真木の両手は粉だらけで、兵部の黒い学生服とは普通に考えて相性が悪い。どうやったところで今の姿勢のまま手を洗うのは不可能に思えた。どいてもらわな いと。
「わかった、じゃあしがみつくから、そのまま洗いに行って」
「ええっ」
「できるだろう?」
 そう言われるとやらない訳にはいかないだろう。あまり積極的にはやりたくないが、兵部一人ぶんの体重くらいはなんとでもなる。
「じゃ、立ち上がるんでしっかりしがみついてください」
「うん」
 ぎゅう、と両手両足を背中に巻き付けた兵部の髪が、真木の頬を撫でる。ふわりと漂う兵部の香りに目眩に似たものを感じながら、兵部が抱きついたままの姿 勢で立ち上がり、シンクで手を洗う。前にかがめないのが不便だ。
「終わりましたよ」
 告げながら立ったままで兵部の身体を支えると、兵部が顔をひいて真木に正面から向きあった。
「そう、じゃああとは夕食前まで――」
 その時、奇妙な浮遊感とともに辺りの景色が変わる。テレポートしたのだ、と思いついた時には見覚えのある風景が目の前に展開されている。
「――君の部屋で過ごす、ということで」
 そこは真木の自室に他ならなかった。
 そしてスツールのかわりにソファに身を沈めさせられた。兵部はしがみついていた手を放して真木の膝の上に横座りになっている。
「この姿勢のままは困ります少佐、俺は仕事が……」
「わかったわかった」
 兵部が面倒くさそうに手を振るとソファの前のテーブルに真木のノートパソコンと周辺機器がテレポートとサイコキノによって設置される。
「これで仕事できるだろう?」
「少佐……」
 邪魔だからどけ、と言わないと分からないのだろうか。それはできれば避けたいが、こんな膝抱っこの姿勢で集中できるはずがない。これでも一応まだ二十台 の、愛する人と至近距離で触れ合って平気でいられるわけのない年頃の男だというのに。
 そんな真木の表情を(あるいは心を)読んだらしい兵部が、にっこりと微笑む。
「僕にどいてほしいかい、真木?」
「いやその」
「どいてもいいよ?」
 驚いた。兵部がこんなにあっさりと折れるとは思っても――
「キスしてくれたらね」
 ――思えなくて当たり前だった。
「きき、キスですか?」
「なんだよ今更」
 そう言われても、いつもの、皆が寝静まった夜の逢瀬ならともかく、こんな昼間からそんなことをするのには照れがある。
「どうせ他には誰もいないんだぜ?してくれなきゃ、僕はずっとここから動かない」
「そんなっ……」
「さあ真木、どうするのさ」
 脅しのように迫られて、真木は兵部の顎に手をかけた。
「じゃあ、目を閉じて下さい」
「ん」
 迫ったままのポーズでお任せとばかり目を閉じる兵部の唇に、自分のそれを近づけていく。
 真木もまた目を閉じる。と、ふわりと真木の鼻をくすぐった兵部の香りは、つい先刻のそれよりも甘くなっている気がした。
 触れあった瞬間に、真木の後ろ髪を引っ張るように引き寄せられると兵部の舌が口内に入り込んでくる。
 そして真木は、愉しそうに口腔内をまさぐる兵部の舌の動きに、午後からの仕事の遂行を諦めるのだった。


                                      <終>



   ■あとがき■

キスお 題:シチュ:自室、表情:「お任せ」、ポイント:「膝抱っこ」、「相手にキスを迫られている姿」です。

いつものジェネレーターが重複しまくりだったので、またしてもキスお題でした。たまには真木さんが兵部さんにキスを迫ってもおかしくないと思うのですが、 なかなかそこまで育ってくれません。


                  written by Yokoyama(kari) of hyoubutter 2010.09.18





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