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炎上 
 - fire -
 

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 縄が手首に食い込んで痛い。頭の遙か上で両腕を縛られて、目の前にECMを置かれてかれこれ半日以上このポーズでいたら当然のことだが、やはり痛いもの は痛い。
「なあ兄ちゃんよ、いい加減白状しなよ」
 くわえ煙草の50がらみの男が、ヤニの匂いをわざと吹きかけながら葉に告げる。
「この街でエスパーを直接戦力として使ってる団体はそう多くねぇ。ましてあんたみたいな若いのが潜り込んでくるたぁ、そう大きい団体じゃあるまい。流行の チームだかギャングスターだか知らないが、吐いてしまったほうが楽になるぜ?なんならウチの組を紹介してやってもいい。チームじゃねぇ、組だぞ」
 男の台詞や態度からも、葉のことを街のチンピラに毛が生えた程度の存在と思っていることが伝わってくる。
 こうやってこの見張り役らしい男は時々質問してくる。どうやら尋問のつもりらしい。葉を迎えに来る者がいるとは夢にも思っていない態度だ。
「……」
「まただんまりか」
 葉が黙っているのは萎縮しているからではない、おかしいからだ。
 自分の失態が、自分の所属している組織を男が知らないことが、自分たちがなおも有利であると信じていることが。
 破局はあっけなくやってきた。
 ガシャーン!
 天窓を突き破ってひとつの影が倉庫の中央に立ちふさがる。
「な、なんじゃこりゃあ!?」
 それは等身大の着せ替え人形で、九具津の手によるデコイ――等身大モガちゃんMkUに他ならなかった。
『ECCM、オン!超能力の利用が可能です』
「助かった!」
 モガちゃんの瞳がブルーの光を放ち始めると、葉の超能力が戻る。振動波で真っ先に両手の束縛を解いた。
「痛かったな〜」
「ッ、ヒイッ」
 両手首をさする葉を見て、男が無様にも半ば腰を抜かした状態で入り口へと走り寄る。内側から鍵を開けて逃げるつもりだ。
「逃がすかっ!」
 葉の声が妙な風にハウリングすると、男の横をかすめて鋼鉄製のドアがへし折れる。
「あわ、アワワ……」
 それでもずるがしこく葉のほうを見ることはせずに外に出ようとしたところに、パシャリと小さな音とフラッシュの光が葉の元へと届く。と同時に、男はその 場に昏倒してしまった。
「犯人つーかまえた、っと」
 そこにはデジタルカメラを構えた黒巻の姿があった。

「ひとつ貸しだからな、葉」
 倉庫から出てきた葉に真木が言葉をかけると、葉はぷぅっと顔をふくらませる。
「ちょっと、真木さんの情報にはECMが備え付けられてるなんてのはなかったよ。俺のせい?」
「だから情報の確認をして少佐に相談するまで待てと言っただろうが。先走りすぎだ」
 剣呑な雰囲気になりかけた時に、真木の隣に紅葉がテレポートしてきた。
「まぁまぁ、無事だったんだしよかったじゃないの」
「うむ……」
「たしかに、無事だけど、さー……」
 と組長の屋敷を見ると、キャンプファイアーなどとは比べようもなく天高くそびえ立つ炎の柱に全てを焼かれ、ものの見事に全焼コースである。そう、三人は 降りかかる火の粉の下で合流を果たしたのだった。
「どしたの、あれ」
 横に控えていた澪とカズラとパティに問いかけると、三人が少し戸惑った様子で葉に返答を返す。
「カガリが……|発火能力≪パイロキネシス≫で……」
「なーんか、張り切っちゃってたよ」
「“葉兄ィのかたき”、って言ってた……」
「かたきっつったって俺死んだ訳でもねーのに、張り切りすぎじゃねえ?」
 葉の目の前で炎はますます大きくなっているように見えた。
「これじゃ俺が忍び込んで捕まった意味、無くね?」
「お前が捕まった時点で、奴らは敵と認定された。そういうことだ」
 どうやらカガリに許可を出したのは真木らしい。
「珍しいこともあるものよねー、慎重派の真木ちゃんが」
『腹に据えかねたのだろう。葉と自分との二重の失態だからな』
 マッスルとコレミツがやってくると、その後ろから気が済んだらしいカガリも戻ってくる。
「えー、では一同」
 真木が咳払いをしてその場にいるメンバーに語りかける。
「少佐には内緒だ!以上、散会!」

 澪とパティは自分の能力で飛んで行ってしまったし、真木も別件で用事があるとかで飛んでいってしまった。九具津は黒巻とマッスル、コレミツにモガちゃん 人形を車に乗せて満員御礼状態で出ていった。残ったカズラとカガリをともにテレポートで運ぼうとしている紅葉に、葉が話しかけた。
「あ、カガリは俺が連れて帰るわ」
「葉兄ィ?」
「わかった、任せたわよ、葉」
 疑問を呈したカガリの質問を飛ばす形で話をつけると、紅葉とカズラの姿が消える。
 葉もカガリを連れて空へと飛び出した。
 屋敷を燃やし尽くした炎はもう収まりつつあった。

「弟分なのに心配かけたな」
 カガリの帽子ごと葉に頭を撫でられて、カガリの反骨心と羞恥心をミックスした感情が声になってあふれ出る。
「別に……心配してねーし」
「俺の分まで燃やしてくれたじゃん」
「久しぶりに火遊びがしたかっただけだし!」
 ムッとして言い返すカガリに葉がわかった、という風に手でジェスチャーする。なんだろうこの余裕は。あんなに心配したのに、しかも、何が弟分、だ。兄貴 風を吹かせて。腹立たしい。
 早く同じ立場になりたい。葉のように単独の仕事を任されたりできるように、もっと大人になりたい。
「そーだなー、このお礼だけど」
「礼なんかいいって」
 自分は空を飛ぶことも瞬間移動することもできない。ただ燃やすだけ。早く葉に並びたいのに、ままならない。
「次は俺が盾になってやっから」
「は?なにそれ」
「言葉どおりの意味ー」
「やめろよな、自己犠牲とかアンタに似合わないぜ」
「うん、だから今度一回だけ、ね」
 余裕の表情でウインクされると、カガリは頬の火照りを自覚しながら、拗ねた顔になってそっぽを向くしかなかった。

 カタストロフィ号に戻ると、葉の部屋の手前、カガリの部屋の前に一つの人影があった。
「やあ、葉、カガリ。今日はみんな夜遊びが好きだねえ」
「しょ、少佐……」
「やべっ……」
 目の前には兵部がいた。しかも笑みを浮かべて。
「さっきパティたちが帰ってきたんだけど、彼女らどうも焦げ臭いんだよ、おや、カガリ、君もそうだねえ」
「い、いや、これは……葉兄ィ!パス!」
 カガリが葉の背中に回って兵部のほうへと葉を押し出す。
「あれぇ、葉、その手首の擦り傷はどうしたのかな?」
「んーと……ずるいぞカガリ!」
「盾になるって!さっき言ったじゃん俺の盾になるって!今がその時!」
「マジかよー!」
 その場ですったもんだしたあげく、結局二人は兵部に白状させられる事になった。
「じゃあ、まだ戻ってきてないのは真木か。計画にゴーサインを出したのも真木なんだね?」
「はい……」
 もう何も隠すことができなくなった葉が肩を落とすと、兵部はきびすを返して甲板へと向かう。
「二人ともお疲れ様。よくシャワーを浴びるんだよ。特に葉、その手首の擦り傷はカガリに治療してもらうこと」
「「わかりました」」
 兵部が消えると、ようやく葉もカガリも一息ついた。
「恐ろしいな」
「ついに話の最後まで笑顔だったな」
「かわいそうな――」
「――真木さん……」
 そんな会話を交わしながら、救急箱のあるダイニングへと二人は向かったのだった。



                                      <終>



   ■あとがき■

ジェネ レーターの神様からのお題:「弟」「盾」「流行」でした。

たまに葉が仕事してる話を書いたと思ったら冒頭から捕まってしまったでござるの巻。。

                  written by Yokoyama(kari) of hyoubutter 2010.09.01