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手を振る影
 - bed make -
 

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 真昼の街道を道から逸れてとある路地裏に入ると、すぐ正面に廃墟がある。
「ちっす、おかえりー」
 廃墟の入り口で手を振る者がいた。
「葉、来てたのかい?」
「うん、今日は特に任務もねーし、暇だったから」
 石造りの戸を二人でくぐって二階の奥の部屋へと歩く。
 もとは民家だったらしい廃墟の、その部屋の扉は寝室のそれだ。もっとも、今もきちんと玄関には鍵がかかり出入りする人間もいるこの建物を、廃墟と呼ぶの はもしかしたら間違っているのかもしれない。
 この建物はパンドラが世界各地とカタストロフィ号を結ぶ「ゲート」を設置しているうちのひとつで、イタリア支部のごく近くに設けられている。兵部はその イタリア支部との打ち合わせが終わって戻ってきたのだ。
 予定よりずいぶん早く打ち合わせが済んだというのに、葉はそれよりもさらに前からこの建物に来ていたことになる。その理由を問うと。
「準備してたから」
 と歩きながら答えた。
「準備って?」
「それはねー」
 にっこりと笑うと、兵部との距離を一気につめて、不意打ちぎみに唇を奪う。
「ン――!?」
 兵部の舌に自らのそれを巻き付けてきつく吸うと、舌先をやわく噛まれる。とたんに痺れが身体の芯を支配する。次いで下唇もまた甘噛みされると、くらりと 目眩がして、気が付くと葉に抱きとめられていた。
「京介、キス弱すぎ」
 昔のように名前で呼ぶのは、二人だけでいる時の特徴だ。すっかり大人に育った腕が、足に力の入らなくなっている兵部をしっかりと抱いている。
「ほら、着いた」
 半ば抱きかかえられながら二階のゲートのある部屋とは反対側の寝室の扉を開けると、そこは丁寧に片づけられて埃もない状態になっていた。
「葉、これって……」
「言ったろ、準備してたって」
 そのままベッドへと導かれそうになり、兵部はあわてて手をばたつかせる。
「ちょ、ちょっと待って、僕はそんな――」
「うん、準備OKだね?」
 異論を唱えようとした矢先に葉の手が素早く兵部の足の付け根を抑え、両足の間で硬くなっているものを捉える。兵部は羞恥にすくみ上がった。
「待ってってば、葉っ」
「イヤだ、待てない」
 いちばん最近葉と情を交わしてから、思い返してみればたしかに大分空いてしまっていた。だからといって、こんな場所で。
「誰が来るかわからないんだよ!?」
「だからこそいいんじゃん」
「――葉っ!」
 パン、と乾いた音が響く。兵部が葉の頬をひっぱたいたのだ。
「こんなの、嫌だ」
 きっぱりと言い切った兵部を、頬に手を当てた葉がせせら笑う。
「嘘だって、バレバレだよ?さっきからずっと」
 そういってさっき手で触った兵部のものに腰を当てて身体をすり寄せる。
「よ――」
 名を呼ぶより前にベッドに押し倒されて、また唇を奪われる。
 再びの長い長いキスの間に、何度も逃げようとするたびに追い込まれた兵部は、すっかり組み伏せられてしまっていた。
「京介はさ、身体のほうが正直だよね」
 唾液で濡れた唇を舐めながら発せられた声音に、オスの匂いを感じ取ってしまったら、今度は動けない。
「もっと正直に生きればいいのに」
 兵部の学生服の前を空け、長袖に手をかけて脱がしにかかる葉に、兵部は抵抗することを止めた。

 珍しい。実に珍しい光景に、兵部は色々とため込んだ文句を言うのをすっかり忘れて感心してしまった。
「君が反省しているなんてね」
「うるせー……」
 まだベッドから起きあがれない兵部とは反対にベッドから身体を起こして腰掛けた葉は、兵部に背中を向け、頭を抱えて反省している。
「もうさ、イヤなんだよがっつくのとか、余裕ないと思われるのとか。なのになんで俺、駄目なんだろ。京介見てると我慢きかなくなるっつーか……」
 声も小さく、最後の方はぶつぶつとつぶやくようになっている。
「葉ー」
 兵部が名を呼ぶと、俯いていた頭を兵部の方に向ける。
「……情けない顔」
「うるせーよ」
 その顔は後悔と慚愧の念で今にも泣き出しそうに見えた。それでも文句を言うのは忘れないのが葉らしい。
 そう、ひどく葉らしい。強引な押し倒しかたも、嘘みたいにしょげている顔も。
「葉」
「なにさ」
「そのままでいてよ?」
「はぁ?」
 葉がわけがわからない、という声を上げながら顔を近づけてくると、兵部は思わず頬を緩めた。
「そう悪くはなかったってことさ。君らしくて、ね」
 そうして、葉の顔がぱぁ、と晴れやかになる。身体のあちこちが痛いし、全てを許したわけじゃないけど、今日はこの位で勘弁してやろう。
「じゃあ、じゃあさ、もういっかい……」
「――調子に乗るなっ!」
 そして。
 兵部はまだひっぱたいてなかった方の頬を、力いっぱいはり倒した。


                                      <終>



   ■あとがき■

お題: 「昼の廃墟」で登場人物が「ひっぱたく」、「長袖」という単語を使ったお話を考えて下さい。

「ひっぱたく」が難しかったです。そろそろお題も重複してきて、パンドラはいったいいくつ廃墟持ってるんだって感じになってきました。
しかし、葉兵で珍しく踏み込んだ話を書いてしまいました。自分が一番驚いています。

                  written by Yokoyama(kari) of hyoubutter 2010.09.18