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ホテル
 - simple world -
 

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  火曜日、朝、八時。
 ホテルの部屋はオートロックだから、各部屋に備え付けのカードキーがなければ、内側から開けるしかない。
 外側からアピールする一番スタンダードな方法、呼び出しのブザーを押すと、ふた時ほどの間をおいて、ガチャリとドアが開く。
 ドアの外に居た黒いスーツに長髪の男――真木司郎は、内側から出てきた銀の髪の少年、兵部京介の居住まいにため息をついた。
「スリッパくらい履いてください」
「やだよめんどくさい」
 備え付けの簡易なスリッパすら履くことなく、素足でぺたぺたと歩き回っている。
 その上、バスローブ姿で、その下には何も着ていないときた日には。
「あなたはもう……」
 無防備というだけの問題ではなくて、目のやりどころに困るあまり、ついぼやいてしまう。
「あ、そういうこと言うんだ?」
 現在このホテルに二人が泊まっているのには理由があった。パンドラに入りたいという一人の|超能力者≪エスパー≫の男性を訪ねて、ここ敦賀までやってき たのだ。相手は福岡在住であり、こちらは東京から出発ということで、中間地点の敦賀のホテルで落ち合ったのが昨日。
 兵部自らがやってきたのは、平たく言えばその男性との面接のためだ。深層心理までチェックしないと、どんな妨害や罠が待っているか分かったものではな い。
 が、チケットとホテルの手配をした真木は、自分たちは一緒の部屋でいいじゃないかと言う兵部に対して、今回は海のものとも山のものとも分からない相手と 合流するのだから、絶対に別の部屋だと言って譲らなかった。これは兵部の名誉のためだ。
 なのに、新幹線の中は無言。『面接』こそ大過なく終わったが、夕食を勧めても、露骨にそっぽを向くと、自分の部屋にこもって兵部は出てこなかった。
 そうして一夜明けて呼びにきてみると、兵部は裸同然の姿で出迎えた。いや、寝乱れたバスローブの間から覗く白い肌や、裾から伸びるすらりとした足と、そ れに連なる細い足首の破壊力はそれ以上だった。――真木とて、ホテルには泊まらずに帰るという男を見送った後は、多少なりとも煩悶しなかった訳ではない。 だから、思わす目を逸らしてしまうのも仕方のないことではあったのだが、兵部がそんなこと知っているはずもなく。
 機嫌を損ねたことを感じて、しまった、と、床のカーペットの上を滑らせるように後退りした時にはもう遅かった。
 浮遊感が真木を包む。
「ぅわっ!?」
 兵部の|瞬間移動≪テレポーテーション≫で天井ギリギリに出没させられると――落下。
 ぼふん、と着地した先は、ベッドだ。
「しょう、さ?」
 ドアが閉まり、オートロックのかかる音が遠くから聞こえる。
 それとは違うひたひたという音がベッドに近づくと、その主が真木にのしかかった。
「しょ、少佐っ?」
「ちょっと早起きしちゃったな。真木、君のせいだよ」
 兵部の目に浮かぶ悪戯な光に、限りなく嫌な予感を感じて逃げようとする真木だったが、ベッドの頭側の壁に背を押しつけるのがせいぜいだ。
「なにがですかっ!…って、ちょっと!」
 鼻歌でも歌いそうな上機嫌で真木の革靴を脱がせはじめる兵部に、真木があわてる。
「だって、ベッドに靴なんてありえないし」
 もう片方の足のほうも脱がせにいくと、真木はまだ逃げ腰だ。しかしもう真木の後ろには壁しかないのだからして、兵部は脱がせ終わった靴を床に放り投げ た。
「そうだ少佐、ここのホテルの朝食は評判がよくてですね、ランチタイムも人が並んでいるくらいの…」
 話題を逸らせたいのは見え見えだが、どちらにせよ最初の「そ」が裏返って変な発音になってしまっている時点で失敗している。
「じゃあ、ランチはここのホテルで食べよう」
 自分の台詞を逆手に取られて真木が喉をつまらせた。
 そこに兵部が追い打ちをかける。
「今は君が食べたい」
「しょ、」

 少佐、という言葉は、真木の口から発することなく、兵部の唇でふさがれる。
 真木の唇を割って、兵部の薄い舌が入り込む。けれどあまり深くまで追求をする気はないようだった。
「んっ…」
 すっかり静かになった真木の前で、兵部は自分の唇を舐めてみせる。
「ほら、やっぱり」
 そしてもう一度。真木の唇の表面だけを舐めた。
「こっちのほうが、美味しい」
 ね?と顔と顔を近づける。陥落まで、あとほんの少しだ。
「あなたという人は…」
 一体何度言われたかわからない台詞は無視して。
「ここはホテルで、ベッドにいるのは恋人同士。することはシンプルだろ?」
 それは不遜な、でもとびっきりの笑顔で告げると。
 内心でやれやれと思いながらも、真木は兵部の腰に手を回した。


                                                                        <終>



   ■あとがき■

 満員電車に続く、目指せ 「すがすがしいくらいバカップル」第二弾、です。
 みんなの目からみて「なに このバカップル」ってなってるといいな。
 そんで少しでも楽しんでも らえるといいな。

 原作から推測するに、少佐 は基本、裸で寝てると思ってます。
 パジャマ着て寝ても、起き たら何故か脱いでしまっている子供みたいなタイプじゃないかなーと。
 そんでそれに真木がどぎま ぎしてると楽しいなーと。
 でもほんとは胸の傷跡があ るから、一人の時と真木のいる時以外はそんなことしないんじゃないかなーと。
 そんな感じが、こういう話 になりました。

 面接の結果?それはえー、 当選者には発送をもって発表にかえさせてもらっております


                 
written by Yokoyama(kari) of hyoubutter 2009.11.24