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満員電車
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 こんな仕事は二度と御免だ、と真木は心中でほぞを噛む。
 彼は今、愛おしい人間とぴったりと体を密着させていた。
 二人の間には鼠一匹入り込む余裕さえなく。しかも彼等はその状態で衆人監視にさらされていた。
 朝八時半の、都心へ向かう満員電車の中で。

 『ザ・チルドレン』の護衛役のテストが終わった、と連絡があったのは数日前。
 どうやら新しい護衛役は元ブラック・ファントム――しかも、兵部には少なからず縁のある、『バレット』と、真木には内緒だがやはり兵部自らその能力を目 の当たりにしたことのある『ティム・トイ』だという。
 その二人なら、ブラック・ファントムの洗脳や工作の可能性を抜けばおそらく心配あるまい、というのが実際に彼と戦ったことのある兵部とその幹部の意見の 総意だった。なにしろ、こちらにもパティ・クルーという元ブラック・ファントムのメンバーがいる。そして自滅プログラムの発動を最後に、彼女には細工も暗 示もかけられていないようだった。
 そこまではよかったが、九具津が「護衛の」様子を見た方がいいのではないか、と言い出した。彼の目から見て、どうも「何か」動きが多少キナ臭いとのこと だった。何者かの干渉を受けているような、元バベルのメンバーとして不自然さを感じるという。
 そして、調査に立候補したのが兵部だった。

 なにもご自分で行かれなくとも、と進言をした真木がそのお付きに任命された。――なんだか最近同じ ようなパターンで真木に仕事がまわることが多い気がす る。ちなみに言い出した九具津当人は何故かちゃっかり留守番におさまっている。
 その上行楽気分で、たまには汽車もいい、と言い出したのは兵部だ。
 真木は生真面目に今は汽車ではなく電車です、と言い直すと、朝のその時刻の都内の列車がどんなありさまなのかを説明し、兵部の提案を退けようとした。
 だがその反論が面白くなかったらしい。どうしても列車じゃなきゃ嫌だ、しかも始発や快速はつまらないなどと言って兵部は真木を連れてわざわざ満員電車に 飛び込んだ。

 列車の中において、兵部は特に小さいほうではない。まあ真木が大きいのはわかりきったことだが、その大きすぎる人間は体と同じぐらい大きな心配性に育っ た。結果、自然と、真木が兵部を自分の懐に誘導して守る形になるのだが、それでも乗車率150%は伊達ではなかった。
 今は片手で兵部の肩に手を回している状態なのだが、兵部はあまりの混雑ぶりに、逆ギレする余力もなさそうに力を抜いている。
「人いきれに酔いましたか?」
「別に…!っと!」
 こんなに混雑していても列車は揺れる。一度二人の周りが空いた瞬間に、真木はもう片方の手で兵部の腰を抱えた。それはもちろんまた揺れたりした時のため なのだが。
「案外、大胆だね?」
「どうしてそうなるんですか!」
 公衆の面前でのセクハラ発言はまたしても真木を慌てさせたが、列車が止まると出口から人々が出て、そこを入口にまた人の群れが車内に入り込む。
 どうやったらこれ以上人間が入る余地があるのかという位なのに、また人の群れが押し寄せて、ついに兵部の足は浮いてしまった。ため息とともに真木の肩に 顎を預ける。
「真木、今回は全面的に僕が悪かった」
 強制された浮遊感に嫌気がさしたのか、殊勝にも(!)謝ってきた。
「わかっていただけて光栄……!?」
 喜びと諦めで嫌味を言いかけたのもつかの間、真木の耳を濡れたものがなぞる。熱い吐息で、それが兵部の舌だったことを理解した。
「なんてね」
「ちょ、少佐、やめてくださ……っ!」
 小声で抗議するも、わざと音をたてて兵部の舌が耳を嬲りにくる。
 あげく、目の前の小悪魔は片足を真木の股間に差し込んできた。
「な、た、や、少佐っ!」
「騒ぐなよ、変な奴だと思われるぜ?」
 どちらがですか!口に出したら場所を無視して叫んでしまいそうなので、真木は口をつぐむ。
 幸いこんな混雑の中で、兵部の悪戯を見とがめる者はいないようだ。
 ゆっくりと舌で犯すのを止めたと思ったら今度は耳たぶを甘噛みされて、真木はびくりと身を竦める。
 反応すればするほど兵部の愛撫は執拗になる。わかっていても、反応するなというほうが無理な話だ。ただでさえ密着しているというのに、その上。
 真木は自分の両足の間に割り込んで、真木自身へ擦り寄っているふとどきな太股に意識を移した。

 耳の後ろを啜るように舐め上げては、耳朶を噛む。
 わざと音をたてればたてるほど、真木が慌てるのはよくわかっていた。
 だって自分はそれを楽しんでいるのだから。
 でも。楽しくない部分もあった。
 ――どうしてくれよう、この○○○。
 これだけやっても、どうも反応が鈍い。
 ぐ、と腰を回して、真木の両足の間にある自分の足でそこを刺激してみる。
「少佐っ」
 狼狽する真木。どうやら、足に触った熱い感触からして、それなりに反応はしていたらしい。
 思わず兵部の顔から笑みが零れる。 
「どうかしたのかい、真木?」
 耳に息をふきかけながらゆっくりと一言一言を噛みしめるように問うと。
「……あなたという人は」
 恥ずかしそうに拗ねて――そうは見えないかもしれないが、上目遣いにこちらを見る今の目つきは、小さい頃から真木を知る兵部なら分かる、拗ねている証拠 だ――また目を背ける。
 してやったり、と思った時だった。
「……え?」
 腰を引き寄せていたはずの真木の大きな手が、ゆっくりと兵部の臀部へと降りてゆく。
 何かを確かめるような執拗な手つきで、だ。
「ちょっと、真木?」
 あわてて逃げようとしても、足が宙に浮いた状態で逃げられるわけがない。というか、今まさしく兵部の腰を伝う腕と、兵部自身が押しつけた真木への足の両 方を支点にバランスを取っている状態なのだった。
「静かにしてて下さい」
 兵部にだけ聞こえる低い声で言い放つと、そのまま双丘を下から撫でながら、谷間の近くに指先を這わせる。
「真木っ」
「静かにしていて下さいと言いましたよ」
 そうしてまた尾骨に親指を添えると、掌で二つの丘を割り開くようになで下ろす。
「イヤっ、これ」
「どうかしましたか、少佐?」

「っ……!」
 先刻自分が言った台詞で切り返されるともうぐうの音も出ない。
 臀部と太股との境界を持ち上げるようにさすられて。
「――っ、真木っ」
 口から出た声は我ながら慌てていた。いやらしい手つきに体が反応しているのだ。
 しかも目の前の、黒いスーツを着込んだ、無骨で、とうていそんな痴漢じみた行為をするようには思えない男の手で、だ。
「声が大きいですよ、少佐」
「だってっ」
 性感帯を外して撫でられるのはひどくじれったい。
 もう少し手を伸ばせば、もっといい所に届きそうなのに。
「んあっ」
 電車の揺れで真木が身じろぎすると、兵部の足の間にあった真木の足が、兵部自身を圧迫した。
「気付かれてもいいんですか?」
「っ!」
 意識して口をつぐむ。そしてもう一度、真木の足が兵部を刺激する。――わざとやっていたのだ。自分がついさっき、真木にしたのと同じことを。
「真木、お前……」
 照れと怒りと恥ずかしさがないまぜになって言葉が続かない。
 一番恥ずかしいのは反応してしまっている自分自身に対して、だ。
 股の内側をさする真木の返事はない。
 ゆっくりと太股の裏側を下へと撫でられたかと思うと、今度は内股を撫であげてくる。もう少しで、欲しくてたまらなくなっている所に触れられそうなのに、 するりと外されて。
「――ぅン」
 思わず不満な声が出る。
 実際、不満なのだ。
 と、揺れと共に兵部を圧迫していた人並みが崩れ、宙に浮いたままだった兵部の足がすとんと床に降りる。文字通り地に足のついた感触に安心したのも束の 間、真木の肩越しに数人挟んだ場所にいる高校生風の男子と目があった――気がした。
 こんな所で、こんな自分を見られるなんて耐えられない。
 ふるふると頭を振ると、目を伏せ、兵部は真木の肩に顔を埋めた。
 けれど、肩というよりは、限りなくスーツのシャツと髪の毛の生え際に近いところに鼻先をよせられた真木が、露骨に反応したことに兵部は気付いていない。
 自分の快楽を追うのでいっぱいいっぱいだからだ。
「ま、ぎ――」
 真木の手は兵部の学生服の裾から内側へと入り込み、シャツごしに指で背筋をなぞり上げる。
「ンあっ」
 必死にこらえているのに、思わず体が跳ねて、声が漏れる。
「我慢できませんか」
 さっきからずっと同じ声音で真木は囁いているのに、兵部には今の言葉が不遜に聞こえた。自信たっぷりで、勝ち誇られた――ような気になって、悔しくて、 真木の足の間を太股でこれでもかとばかりに何度も刺激する。そこは明らかに硬く、大きくなっていた。
「少佐」
 咎められようと何と言われようと、聞いてなどやらない。
 そんな兵部の決心を見越したのか、しかたありませんね、と真木がつぶやくのが聞こえた。
「あっ?」
 すると、兵部が真木にしていたことを真木がやり返してきた。硬く鍛えられた太股で兵部の足の間に刺激を加えたのだ。
「ふぁ、うっ」
 堪らなくなって真木の肩に噛みつかんばかりに顔を押しつける。声を抑えるためだ。
「んぁっ」
 たったこれだけで、立場が逆転してしまっていた。真木を責めていたはずなのに、自分が責められている。
 声をあげないように必死になっていると、真木の手が、今度は学生服の下のシャツとパンツの間、ウエストに入り込んだ。かと思うと、シャツを引き上げてし まう。後ろから全てを見下ろせる人間がいたのならば、学生服の上着をはだけられ、シャツと肌との間に手のひらが入り込むのが見えただろう。
「ぁ……!」
 素肌をなぞられる感触にぞくりと身が震え、背が反る。恐怖のような期待のような色をしたそれは、欲情だ。
 腰から背中、肩胛骨の間にかけて、真木の手が兵部の素肌の上を蹂躙する。
「――んっ……ン」
「少佐」
 いいところはもうとっくに知れている間柄だ。
 だから兵部の状態を見て、今どれだけ追いつめられているかを真木は知っているはずだ。
 それが、無性に恥ずかしい。
「まだ、列車に乗っていられますか?」
「聞くな、馬鹿……っ」
「言われないと、分かりません」
 言いながら、背中を撫でていた手が脇腹を経て、兵部の腹をまさぐる。
 ――限界だ。
 ゆっくりと臍の輪郭を撫でながら、胸の方へと移動しようとする真木の手を止めることもできない。
「――だ」
 降参、だった。
「聞こえませんよ」
「もう、無理……だっ」
 言うと、真木の手と足とがともに止まる。
「撫でられただけで、そんなになってしまったんですか?」
 うるさい。
 今は、そんな言葉、聞きたくない。
 キッと睨みつけると、果たしてそこには、情欲を隠しきれない獣の瞳があった。
「真、木」
 真木も決して平静でいたわけではないと知った優越感が、 僅かながらも兵部に平静さを取り戻させた。
「どうしました?」
 少しだけ焦りのようなものの浮かんだ声。
 それは自分を貪ろうとする獣の唸り。
 それでいい。十分だ。
「今日は、予定はキャンセル、だ」
 火照った体では、もう予定も仕事もどうでもよくなってしまった。頭の片隅で、チルドレンなら心配するこはないさとと言い訳する自分を感じながらも、ここ まで募ってしまった欲望にはもう勝てない。
 食らい尽くされたい。
 このまま、何も考えられなくなりたい。
 二人きりになって、素肌で真木を感じたい。
「僕は、お前が欲しい。真木」
 今すぐに。
「……はい」
 仕方ありませんね、と言いたげな口調。けれど兵部の目線の先には、今日はじめて見せる、真木の微笑みがあって。
 兵部がゆっくりとその頬に掌を近づけ、触れ合うと。
 一瞬後には、満員電車の中から、二つの人影が忽然と消えていた。

             

                                                                        <終>



   ■あとがき■

  コンセプトは 「すがすがしいくらいバカップル」のはずが…何故か公共交通機関でこんなことに。
   二人は私が思っている以上にオープンなエロテロリストでした。
 サブタイトルはNickerbackの曲より。この曲の歌詞がヤバいせいか、 あんまりエロくならなかったかな?と反省。

 満員電車 に閉口したテレポーターが忽然と姿を消すってのは、絶チルの世界ではそんな珍しくもなさそうじゃないですか?

 し かし、ようやく大人のお友達にも喜んでもらえそうなものをアップできたお…。
 限りなく自己満足かもしれないけど、頑張ったんだお…。
 かなり前からあーでもないこーでもないと書いてて、今回も推敲いっぱいしたお…。
 少しでも楽しんでもらえると嬉しいんだお (・∀・)

                written by Yokoyama(kari) of hyoubutter  2009.11.19