hyoubutter
ABOUT
NEW
TEXT
BLOG
LINK
MAILFORM
OFFLINE
twitter
ANOTHER



 
 
 

 
 
 
リボン
 
- My dearest Hermione - 

BACK TEXTPAGE
OLD CONTENTS
NEXT CONTENTS



 ひなまつりの日、昼食に一同でちらし寿司を食べた後、兵部は忽然と姿を消した。
 その直後、バベルのザ・チルドレンの見張りから連絡が入った。「兵部少佐が、バベルのドクターの部屋に、チルドレンと主任を伴って消えた」と。
 一同がっくりと頭を下げた後、戻ってくるはずのない――なにせチルドレンがらみだ――兵部がいなくなって寂しがる子供達の世話に大わらわになったことは 言うまでもない。
 とまあ、そんな訳で。
 ひなまつりの日だというのに、夜9時過ぎ、子供達を寝かしつけた後の一同が飲みに出かけるのも、無理らしからぬことではあった。

 繁華街のジャズバー。とはいえバーというよりきちんとしたライブハウスであり、生演奏を聴きながらでも、大きめのホールゆえに会話を咎める者もいない。
「もうっ、少佐ったらアタシだけを置いて行っちゃうなんて!」
「だれがマッスルだけを置いていったってんだよ……俺らもだろ」
「葉、マッスルにつっこんだら負けよ」
『紅葉の言うことが正しいと思う』
 夕食時、子供達は甘酒だが大人にはちゃんと酒が出たので、一同はほどよく酔っぱらっている。
 それは真木も例外ではなかったので、最初は空耳かと思った。
『――真木』
 空耳と思ったもう一つの理由は、声の主がここには居ない者であり、周囲を見渡しても見慣れた人影は見えないことによる。
『真木、外に出て』
「皆、悪いが、俺はちょっと」
 真木が立ち上がると、一同適当に相づちを打って真木を見送る。泥酔してバベル時代の不満を吹聴していた九具津が突っ伏して動かなくなっているのが少し気 になったが、後のことは残った紅葉や葉、あるいはマッスルかコレミツあたりがなんとかするだろう。
 店を出るとまた声が聞こえる。間違いない。兵部のものだ。
『そこから、一旦ビルに戻って、正面右側の非常階段を上がって来て』
 声に導かれるままに階段を上がって、そこにいた人影を見て――真木は絶句した。

「わざわざ来てもらってすまないね」
 今度こそ肉声で声をかけても真木は答えない。というか言葉を失っているようだ。
 まあ、仕方がないかもしれない。何しろこちらは女装だ。しかもクイーンや皆本の反応から察するに、あまり一般的な服装ではなく、恥ずかしい部類のもので あるらしい。が……。
「ちょっと、真木」
 いくら何でもいつまでも驚きすぎだ。たしかに、黒いドレスの裾は短く、下からはレースが多めに重ねられているのが覗き見えているものの、ストッキングと スカートの間のガーターベルトがチラチラと見える程度の長さでしかない。そしてその上はフリルを多用した白いエプロンになっており、スカートと同色のロン グの手袋が二の腕の半ばまでを覆ってこそいるがドレスの袖はほとんど無く、肩を出しているに等しい。俗に言うエプロンドレスだ。それも超ミニ の。それだけならまだ単なる女装で済んだかもしれない――最近は『男の娘』とかいってそういう輩が増えているらしい――が、髪の間からは猫の耳を模し両耳 をフリルで繋いだカチューシャをつけ、ドレスと同色のリボンで違和感を消している。
「まーぎ。そんなに驚くようなことかい?」
「……お、お、驚かずにいられますか!!」
 ようやく聞くことの出来た真木の声は羞恥とか呆れとかより、怒りのほうが勝っている。
「仕方ないじゃん、クイーンのためだったんだから」
「クイーン……明石、薫…ですか」
「そうさ」
 それから兵部は事のいきさつを真木に説明し始める。まずザ・チルドレンの3人にひなまつりのお祝いを届けに行った。と、そこにあの『ザ・チルドレン』現 場主任――皆本が、あのヤブ医者の賢木を連れて戻ってきた。
『何をしに来た!』
『別にぃ、ひなまつりのお祝いさ。君たちは手ぶらみたいだけど、クイーンたちを祝う気持ちはないわけ?』
『ふざけるな!彼女たちへの愛情はお前なんかの何十倍もあるさ、このロリコン!』
 とかいういつもの会話が繰り広げられて。
 いつしか、じゃあどちらがよりチルドレンの3人に対して愛情を示せるか、という話になり。
『ねえねえ、じゃあこういう方法はどう!?』
『あーそれはおもろいなー、薫』
『とっても楽しみ〜』
 と三人と賢木が用意したのが、この衣装だった。ちなみに皆本は和装で、しっかり猫耳はお揃いだったが。
『どうだい皆本君、君はここまでできるかい?』
 と、ヤケ気味にエプロンドレスの裾を少しだけめくったところで、勝敗は兵部に上がった。
「ちなみにこの服はあのヤブ医者がとある特殊な趣味のために使っていたもので、このガーターベルトとストッキングは忘れ物で……」
「わかりました、わかりましたからわざわざめくりあげるのはやめてください!」
 会話中に兵部の立っている階段の踊り場目指して上がってきていた真木が、片手で顔を覆いながら兵部のもとへと辿り着く。
「で、着替えはないんですか」
「ん、あるよ?」
 と兵部の後ろ、手すりのところに「B.A.B.E.L.」のロゴの入った白い紙袋が置かれ、中から黒い布地が見えている。いつもの学生服がそこに入って いるのだろう。
「さっさと着替えてください、トイレでもどこでも」
「んー、そうなんだけど」
 と、兵部はくるりと後ろを向くと自らの後ろ髪を上げる。
「な、なっ!?」
「これ後ろフックとファスナーなんだよ。だから脱げなくって」
「…………意味深ですね」
「ん?」 
 真木がいつもより長い沈黙の後によくわからない言葉を発したので振り返ろうとした時。
「んぁっ!?」
 首の後ろを柔らかい感触が触れたかと思うと、続いてちゅ、と首筋を強めに吸われた。真木がキスをしてきたのだと気付いた時には額から後ろ髪にそって指を 差し入れて固定されて、次々と真木の与える接吻から逃げられなくなっていた。
「んっ、あ……ん、ちょっと、っ」
 ようやくなんとか声を出すが、それは自分でも驚くほど快感に走り、気付くと身体に力が入らなくなっていきつつある。そこに。
「んっ……っ」
 顔を後ろに向けられたと思ったら、真木の唇が兵部の唇を奪いに来る。そして気付く、アルコールの臭い。それも相当濃い。
「ちょっと、真木、酒くさ……んン、ん」
 一度は逃れた唇を再度捕らえられ、舌を深くへ、楔のように打ち込まれる。
 匂いだけで酔いかねないほどの吐息の中で、濃厚に触れあうと、脳天までクラクラして立っているのが不思議なくらいだ。
 なのに真木はやめるつもりはないらしい。兵部の体を自分のほうに向けると唇をずらして耳を甘く噛む。身体を強く手すりに押しつけながら。
「くぁ、んっ……」
 電流にも似た快感に、悦びを隠しきれない息が漏れる。
「真木、ここ、人が来るって……」
「大丈夫ですよ、今のあなたなら」
「?」
 言ったそばからギイ、とそう遠くない距離から扉の開く音がする。
「真……」
 慌てて真木から離れようとした途端に両腕で引き寄せられ、呼吸ごと塞がれるかのような強引なキスをされる。
 ――何を考えているんだ、この酔っぱらいは!
 |瞬間移動≪テレポート≫で逃げようかとも思ったが、時すでに遅し。どうやら見つかってしまったらしい、野次が聞こえる。
「ヒュウ」
「おアツいことで、お二人さん」
「いいねえ、うらやましいねえ」
 数人の男達がガヤガヤと真木の背後を通り抜けていく。二階から一階に降りていくと喧噪はすぐに去った。
「……なんで」
 息苦しくなるほどの口付けから解放されると、安堵より疑問のほうが口をついて出た。
「ご自分の服装を考えてみてください」
 言われて下を向いて納得する。
「普通の男女のカップルに見えたのか」
 多少プレイが入っていようと男女であるというだけであの程度の反応で済む。これで真木が喜ぶようならたまには女装して驚かせるのも悪くもないかな、など と考えていた――のが悪かった。
 背中にまわっていた手がそろそろと下へ降りると、止める間もなくスカートの裾から真木の手が入り込んできた。
「うわ、あっ!?」
「……やっぱり」
 脚部と臀部との付け根に到達させると、その大きな手を止めてため息をつく。
「何故下着だけつけてないんですか」
「ちょっとちょっと――しょうがないじゃん、僕にヤブ医者の家にある使用済みの女物を履けっていうのかよ」
「バベルのヤブ医者が女好きと知らなければいろんな誤解を生みそうな台詞ですが……下着くらいつけてください」
「だって、気付かれないと思ったんだもん」
「ご自分でめくってたじゃないですか――本当に、あなたという人は」
 さっきのアレか。そもそもウブな真木をからかうためにガーターベルトを見せつけてやろうと思ってしたことなのだが。
「え、見えてた?」
「直接は見えませんでしたけどわかりますよ」
 すると素肌の上でサワリと微かに掌を動かされて、快と不快の間にある感触につい慌てる。
「やめっ、やめろ、っ……」
 反射的に後ろを向いたところに耳の裏を舐められて、身が竦んだ隙に真木の指が秘所に到達する。
「やめ――ってば……っ!」
 敏感な場所を触れるか触れないかくらいの距離でなぞられて、同じ言葉を繰り返すことしかできない。
「これほど指姦されやすい服装もありませんね」
「……んっ……」
 息を呑んだのは、言葉の内容よりもその声の響きがビロードのように艶めいていたからだ。
 耳朶を甘く噛まれながら、兵部の両足の間に真木の足が割り入ってくる動作に応じて僅かに足を開くと、後ろから秘部に回されていた指が、その先から爪の半 分ほどまで入り込んでくる。
「真、木っ……」
「指姦が強姦になっても文句は言えないんじゃないですか?いや、こんなに淫らだとすでに和姦ですかね」
「誰が、そんなのっ……ぁ――」
 快感に対する弱さを指摘されるのが嫌で反論をしようと口を開いても、漏れる吐息は隠せない。
「懲りましたか?」
「何が、だよ」
「俺以外の人間の前でこんな姿を見せたことですよ」
 反して真木の口調は静かで、声音も滔々としている。アルコールの匂いさえなければいつもと何も変わらない。口惜しくて子供じみた反論をしてしまう。
「別に僕は、真木のものでも何でもない」
「……」
「あ……」
 黙りこくってしまった真木を見て、自分がひどいことを口にしてしまったことに気付くが、もう遅い。
 何か言おうとしても言葉も浮かばずにいると、真木は黙ったまま兵部から手を引き、体を離してしまった。
「真木、その」
 続きが何も出てこない。と、不機嫌そうに見えた真木に手を取られて、下りの階段へと引っ張られる。
「真木?」
「行きますよ」
 真木がようやく口にしたのはただ一言だけ。その声は兵部の耳にやけに低く聞こえた。

 街行く女性と比べて見ても明らかに露出が高いエプロンドレス姿のまま、真木に腕を引っ張られて繁華街を歩く。
「ちょっと真木、歩くの速いっ」
 言っても、ちらりと肩越しに兵部の方を見るだけで、変わらぬ速度で歩き続けるのみだ。
 何というか、真木らしくない。
 少しでも肌の出ているような服でも着ていたのならばあわてて自分の上着をかけようとするのが真木だ。
 なのに今は時折投げかけられる回りの冷やかし目線を気にするもことなく、ぐいぐいと無言で兵部を引っ張りつづける。
「手も、痛いってば」
 張り上げ気味に声を出すと、通りすがりの歩行者たちの中から驚いてこちらを見る者が数人いる。どうやら、周囲には『男の娘』とやらではなく、少し変わっ た服を着た女性、という風に見えているらしい。なんだか黙っているのが最も目立たない方法のようなので、兵部は口をつぐむことにした。
 にしたって、こんなに強引に兵部の手を掴んでつかつかと先に立って歩く真木の背中は、特徴的な長髪さえなければまるで冷たい別人のようだ。
「このあたりでいいでしょうかね」
 繁華街から少し離れてネオンの静まったあたりで真木が足を止めると、今度は建物の中に入っていく。
「真木、ここ――」
 自動ドアを抜けると部屋番とランプのついた案内板が設置されている。赤と緑のランプが灯った案内板のうちの、緑のランプの一つを押すとカードキーが出て きて、真木がそれを手に取ると、かわりにランプが赤に変わる。
「ラブホテル、じゃん」
 ますますらしくない。衛生面がどうの、とか言ってどちらかというと避けたがる真木が、自らこういう場所を選んで入っていくなど。しかも常ならば、名前の 示す通り『そのため』の場所だから、単語を言っただけでうっすら居心地悪げにするような男が、だ。
 だが酒臭いのはたしかだが、理性を失うほど酔っているようには見えない。足取りもしっかりしているし、滑舌もよかったし。なのに、カードキーで開けた部 屋に入ったとたん、突き出されるようにして兵部はベッドへと沈められた。
「何するんだよ、真木っ……?」
 いかにもラブホテルらしく簡単な仕切で寝室は奥へと仕切られており、ベッドの高さから上は三面が鏡張りになっている。天井まで鏡張りの部屋の中心のベッ ドに兵部が仰向けに投げ出されると真木はそれを追ってベッドへと上がってくる。
「お前、強引すぎ――っ!?」
 いつもなら馬乗りになる所を、ドレスの裾をレースごと捲り上げられると、真木の姿が見えなくなってしまう。とっさにスカートを押さえたものの追いつか ず、己の男の象徴が何かやわらかく生温かなものの中に吸い上げられる感触がした。
「アっ?」
 いきなりのことで何が起きているのか分からない。しかし快感は着実に背筋をはい上がり、首を仰け反らせる。そして理解する、天井の鏡を見て。
「――ッ」
 真木はドレスの裾に頭を突っ込んで兵部の男根を手と口とで愛撫しているのだ。しかも自分はやたらと露出の高い女性の服で、露わになった肩で、胸を強調す る時のように肘を内側に寄せて両手でスカート部を真木の頭に必死に押しつけながらも喘いでいた。
「嘘……っ!」
 いくら倒錯的とはいえ、度が過ぎる。破廉恥さに目を閉じるとますます何をされているのかわからなくなって、真木の指と口とに溺れていく。
「あ、ふぁ、ん……んっ……」
 時折ふわりと鼻をつく酒の匂いがあまりに甘くて、とろけるような心地になりながらも、体は解放を求め焦っていく。真木は何一つ言わずに無言で兵部に刺激 を与え続けるが、時折聞こえるぴちゃぴちゃという舐める音や啜るような音が、耳からも兵部を犯す。
「……真木……っ」
 限界を感じて名を呼ぶと、更に奥へと吸い込まれて、真木の喉の奥へと当たる感覚がする。
「駄目、イク……っ!」
 言うや否や一際強く吸われると、兵部は真木の口腔内に自分の欲望を解き放っていた。

 ケホ、と少しだけむせる音がする。目を開けて音がしたほうを見ると、真木が兵部のを飲みきって、その際に少しむせてしまったらしい。
 何度か喉をさする仕草をした真木は、まるで何もなかったかのようだ。服装もブレザーのボタンを締め、ネクタイもきちんとしていて乱れはないし、もちろん 酔っている気配もない。だから訳が分からなくなった。
「真木、なんで……」
 どうしてこんな強引なやりかたをするのかを聞きたいと思いながらも、導かれるままにこのホテルに来て、ベッドの上で誘われて絶頂へと至った。それを甘受 した自分には本当は何も聞く権利はないのではないかという思いが言葉の続きを取りやめさせてしまう。
 そして兵部が思った通りだったのだろう、真木がベッドから立ち上がって歩いていく。まだ肌をあわせるどころか口づけ一つしていないのに、真木が自分から 離れてしまう。 
「……っ!」
 弾かれるようにベッドから上半身を浮かすと、真木がまたベッドへと戻ってきたところだった。今度はジャケットを脱ぎ、少しだけ開いた襟元にはいつものネ クタイがない。
「どうしました?」
 いつもと違わない、きょとんとした顔で聞かれると、こちらも何とも言いようがない。少しだけ気まずい沈黙の中で真木が踏み出してくると、また兵部の秘所 へと手を伸ばしてくる。
「ひゃ、んぁあっ?」
 ひやりとしたものが触れる感触に戸惑って、真木の顔を見る。あいかわらず真木がスカートの中に手を突っ込んでいる、というような非常識な景色が見えるだ けで、ドレスの影になって真木がなにをしているのかが分からないのだ。
「あ……ん…あ――」
 なのに体は開いていく。そして気付く。いつの間にか真木の指が兵部の中に入り込んでいること。挿入のために、滑りを塗り込めていること。たしかにこうい う場所ならローションくらい置いてあっても何の不思議もない。
「――あ、ァ――んっ!」
 相変わらず真木自身は少しも態度を変えることなく言葉もない。自分だけが真木の指に文字通り踊らされている。指を二本、三本と増やされていくうちに、い つしか灯った欲望の火はもうとり返しがつかないほどに燃え上がり、兵部を苛む。
「ああっ、あ、んぁ……っ」
 そしてまた絶頂を迎えそうになった時に、唐突に指を抜かれた。
「――ん、んっ?」
 ワイシャツ姿の真木がジッパーを下ろす音が聞こえたものの、またすぐスカートの裾に隠れる。足を上げられて、それがあてがわれる感覚は分かる。でも本当 にそうなのか?欲しい、だから確かめたい、その一心で天井の鏡を見上げると、真木のものがまさしく兵部に入っていこうとする瞬間を見た。
「ア――あぁあ、あ…ぁ、っ!」
 鏡に魅入られたように目が離せない。ゆっくりと真木が己を進めてくる、その腰つきが淫靡で、兵部の欲もまた強くかきたてられていく。
「ン!真木、はやく。もっと――もっと奥まで、っ!」
 いつの間にこんなに追いつめられていたのかわからない。気が付くと、臆病なほどゆっくりと腰を突き出す真木に、今にも達しそうな声でせがむ自分がいた。
「あぁ……ぁ、ふン――」
 真木は兵部の要求を聞き入れて、一番奥にまで到達した。が、そこから動こうとしない。
「ま、ぎ――」
 兵部の声に真木が顔を上げる。視線があうと、ずっと苦い顔をしていた真木の口元が僅かに緩んだ。それが嬉しくて手を差し伸べると、真木の体が兵部の腕の 中へと入ってきて。緩やかに抱きながらじっと見つめているとやがてキスをされた。足を上げて真木を受け入れているままだから苦しいことは否めないが、それ 以上に嬉しくて、兵部は自ら舌を入れる。今にも動きたい、動いて欲しいと思っているはずなのに、次第に激しくなりつつあるこのキス一つのほうがよほど重要 な気がして。
「――真木、っ……」
 頬を真木の両手で挟まれ、ベッドに後頭部を押しつけられるような激しいキスに、けれど嫌悪感も圧迫感もない。
「――わかりましたか?」
「え?」
 嬉しくて、何度もキスをせがんだのが悪かったのか、真木は唇を離すとそう言った。
「こんなにヤられやすい服で、人前に出るなんて良くありません」
「……」
 反論できない。今現在それこそヤられているのだから。
 けれどそれは逆に考えると、この服を見てそういう気持ちになったとも言えはしないか。
「なに、真木、もしかしてこれに欲情したの?」
 自らの胸のあたりを指して尋ねると、真木は眉間に皺を寄せる。少し何かを考えている様子で。
「そうとも言えるのかもしれませんが……こればかりは、そうは思えませんでしたが」
 これ、と言うと兵部の髪に差し入れていた指を動かし、カチューシャを外す。
「あれ、真木ったらネコミミ萌え属性はないの」
「……どこでそんな単語を覚えてくるんですか」
 かくんと情けなさそうに頭を項垂れると、真木の長髪が白いエプロンの上に墨絵のような曲線を描く。
「ふうん、女装かぁ、そんなに気に入ったならたまにしてあげないこともないよー?」
「……だから……全く!」
 呆れたように、けれどいつもより少し乱暴な物言いをしたかと思うと、カチューシャのリボンを、片側だけするりと抜いた。
「ん?」
 カチューシャの方を脇に置くと、リボンの長さを確かめながら言うには。
「こんな格好をしないでくれと頼んだ矢先にそんなことを言い出すなら、俺だって容赦しません」
「え?」
 容赦しない?今日はどうも真木らしくない発言が多すぎる。更に真木が下を向くと、兵部の屹立に何かが巻き付けられた。
「なに――」
 何をしている、と最後まで問うことは出来なかった。固く立ち上がっているとはいえ、それなりに敏感な場所をきつく拘束された。おそらくはあのリボンで。
「っ、アああアっ!」
 それだけではない。兵部の腰をドレスごしに掴んで、あろうことか真木は激しく動きだしたのだ。
「やぁ、っ、ン、…!」
 真木の動きは容赦ない。メチャクチャなほどの動きで兵部を揺さぶるが、兵部にしてみれば感じるほどに苦しさは増す。そして今の真木の動きはひどく兵部を 翻弄し、強烈な快感を与えている。幾度となく自分でリボンをほどこうと試みるが、そのつどスカートと低く構えた真木の身体に遮られて見ることすらかなわな い。
「うぁ、ぁ、んっ!」
 追いつめられて目を閉じると、涙が出そうになる。その涙を必死に堪えようと目を開けると、天井の鏡には己と真木が服を脱ぐことなくまぐわう姿が映ってお り、快感に左右に首を振ると、どこを見ても二人のいやらしい姿が目に入る。
「くっ、ゥん、真木っ、やめ、ほどいて……っ!」
 口に出したとたん、涙があふれてきた。ぼやける視界に映る真木は、兵部への縛めを外すべきか否か悩んでいるようにも見えた。
「ダメ……もう、無理っ……!」
 痛みを感じているのは体のはずなのに、同時に絶頂にも達する。貪欲さが自分で自分を苦痛へと導いているのに、内股がびくびくと痙攣するのを止められず、 かといって吐き出すこともできず。
「んん、アアアアっ!」
 苦しみに耐えきれず悲鳴を上げるも、真木の動きは変わらない。今でもまだ、激しく腰を打ち付け続けて。
 自分に苦しみを与えているのが真木だと信じたくなくて瞳を閉じると、涙が更にこぼれ落ちて、次第に悲鳴は嗚咽に変わっていく。
「ヤ、ぁあっ、んア、っ……んっ」
「待ってください、もう少しだけ――」
 痛みが過ぎて、なのに快感も確実に存在している。両方に翻弄される兵部に聞こえた真木の声が、体を打ち付ける音に紛れていく。声が小さいのではなく、動 きが激しくなったのだと思い至ってすぐに。
「っク――」
「あぁ、んっ…あ……」
 兵部の中で真木がどくどくと熱いものを溢れさせる感覚が体を震わせる。たてつづけの快感と苦痛の中、この満たされる感覚だけが兵部の心に無数に存在する 渇きのうち一つを、けれど確実に満たしていく。
 痛みもあるし、解き放たれない苦しみも去っていない。けれど真木への怒りは不思議となかった。
 全てを出し切った真木が兵部のなかから熱棒を抜いて、リボンを解こうとする。その手を咄嗟に止めた。
「少佐?」
「自分で…やる……っ」
 ベッドのスプリングで反動をつけて、腰を丸めた胎児のような姿になって自分のものを触ると、熱く、そして歪で、手で触れたけただけで爆発してしまいそう な位だった。こんなものを真木の目に晒してしまった、それだけでもうプライドはズタズタだ。でも今は、何よりも解放こそが最優先だった。
「んク、っん」
 目を閉じていてはままならないのでやむを得ず直視する。あわてて束縛をほどこうとすると逆に食い込んで、そのたび痛みが体中を走る。
「くぅ、ア」
 もどかしさの原因は手袋だ。肩近くまである長い手袋の指先を握り込むようにして、両腕からむしり取る。
「俺が――」
 見かねたのだろう、真木が口を出してくるが、首を振り、腰をベッドに押しつけて自分でしか触れないように拒否をする。ぐり、とシーツに擦るように身体を ずらした時、指先にかかっていたリボンが唐突に解け、解き放つことを許されて、久しぶりの痛みのない快感の奔流がやってきた。その大きなうねりに理性は あっという間に流され消える。
「あ、ああァっ、ん――ふ、ぅ――」
 全身を痙攣させながら、時間を忘れるほどの悦びに長く浸っていると、いつの間にか意識が飛びかけていた。
 ふと気付くとベッドに横に座り、真木に後ろから抱かれ、背をもたれさせるような姿勢になっている。ぷちん、という微かな音とともにドレスの胸元の窮屈さ がなくなる。
「真木……?」
 正面ともう二面を鑑に囲まれたベッド、そのうちの一面に正面から向き合うような形になっていて、嫌でも自分と真木の姿を直視することになる。真木の足の 間に挟まれるような形で座っている影がひとつ。青白い顔は間違いなく自分のもので、その下に続く身体も自分のものなのに、着ているものはエプロンドレスに ガーターベルトのストッキング。しかも左足のベルトは表面側が外れて、白いストッキングが少しずり落ちている。倒錯的、以外の言葉が浮かばない。そしてド レスを脱ぐためには必ず開かなければならない部品のあるあたりで何やら真木が手を動かしているのが見える。
「思えば――」
「?」
「これを外してくれと言って俺を呼び出したんですよね、最初は」
 ファスナーがゆっくりと下げられていく音がする。そういえば、そんなことも言ったかもしれない。着替えたいのはやまやまだけれど自分では脱げなかったの だ。それで困って、真木を呼び出して。
 普段は不器用な指が、じっくりと時間をかけてドレスの肩に手をかけて下ろしていく光景に羞恥心が刺激され、そわそわと身体を動かすと真木が忍び笑う。
「ようやく目が覚めてきましたか?」
「……別に、ずっと覚めてたもん」
「またそうやって嘘をつく」
「ぜっ、全部が嘘ってわけじゃないさ」
「本当に?」
 服の上からなのにどんな技を使ったのか知らないが、両方の乳首をきつめにつままれて無防備な声が出る。
「ああっ、……んっ」
「――驚きましたね」
 鏡越しに真木を上目遣いに見ると、どうやら本気で驚いているようだ。
「まだ欲しいんですか?」
 たしかに今日は口淫が一度、その後にもう一度しかしていない。いつもに比べたらずっと短いし少ないが。
「反応した、ということはそういうことですよね?」
「……」
 直前の絶頂があまりに強烈すぎたために、兵部は何も言えなくなる。嫌だと言えるほど真木と自分の両方に嘘をつくのは得意ではないし、でも苦痛は正直御免 だ。
 悩んで逡巡している間にも、ファスナーをゆるめたことで大分大きく開いた胸元から、真木の両手が差し込まれて、再び兵部の胸の尖りに辿り着く。今度は素 手と素肌で。
「ぁアっ!」
 同時に襟足に顔を埋めるようにキスされて、時折甘噛みしながら背中を降りてくる感覚にぞくりと快感が扉を叩く。何故真木相手だとこうまであっという間に 身体が熱を帯びてしまうのかわからない。
「っ、あっ!?」
 唐突に、真木に後ろから両足の膝の裏を抱えて身体を持ち上げられる。足がMの字に広がり、中心でははしたなく勃ち上がった兵部の雄が物欲しげに涙を湛え ている。
 そして、左足のガーターベルトのフックは完全に外れて、ストッキングごと持ち上げられていた足が一瞬すべり落ちかけるが、今度は下がったストッキングは そのままに素足を再度抱えられると、一番恥ずかしい場所が露わになる。しかもあろうことか、真木がその真下に自分の雄を据える。すっかり大きく堅く屹立し ているものを。
「真木、まさかっ――」
 つい先刻抜かれたばかりのものを、そう自分の身体が強烈に拒否するはずはないと思うが、この姿勢だと真木が力を緩めた瞬間に貫かれてしまう。
「まさか、だよね。やめて、真木」
「だから言っているじゃないですか」
 でなくとも顔から火が出るほど恥ずかしい姿勢だというのに、真木は淡々と兵部に告げる。
「こういう姿はあまりに無防備で――扇情的すぎる」
 あなたが悪いんです、と喉で低く囁くと、一度に両腕の力を抜いた。
「アアアァ――アアぁあ、っ、んっ、ああああぁ――!」
 自重でかつてないほど深くまで真木を迎え入れて、脳天まで痛みとも快感ともつかないものが疾る。もはやなりふりなどかまわずに悲鳴を上げる。
 けれどそれだけだった。真木は動くことも動かすこともせず、兵部の呼吸が落ち着くのを待ちながら告げる。
「あなたのこういう姿を見るのは――」
 膝下にずり落ちたストッキングを左手の先にかけて、するりと脱がす。
 その仕草にまた煽られて、今のままでは足りなくなってくる。もっと動いて欲しい、もっと刺し貫いて。もっと。
「――俺だけにしてください」
「っま、ぎ」
 頭で真木の喉にすり寄ってねだりながら、必死で頭を縦に振ると、クスリと笑う気配がした。
「あなたを抱くのは、俺だけでいいんです」
 今日はもうずっと、いいように弄ばれ続けて。
 常にはない傲慢な言葉も、耳が痺れるほどに心地よく聞こえる自分自身こそが不思議だった。


「……覚えて、ない……?」
 優しい手に揺り動かされて目覚めを促されて、目が覚めたら開口一番、真木が発した言葉が「一体何があったんですか?」だった。
 さすがにお互いのありさまを見て大体の事情は察したらしいが、それだけで十分だった。兵部の怒りが頂点に達するのは。
「く……そ……馬鹿真木がっ!」
 兵部はベッドにつくのではないかと思うくらいの勢いで真木の頭を上から下へとはたいた。
「この馬鹿、馬鹿、間抜け!馬鹿馬鹿バーカ!」
 激昂しながら、出入り口を指す。
「お前はさっさと服を着て僕の着るものを持ってくること!それまでは戻ってくるな!いいな!!」
「は、はいっ」
 体を洗うことも許さずにそう命じると、あたふたとパンツの中にシャツをしまいこみ、前が開いたままのジャケットの下にネクタイを締めながら真木が出て行 く。
 あわただしくバタンとドアが閉まると、二人分の温度が溢れていた部屋が自分の温度のぶんだけになる。
「あの、阿呆!」
 ふと、指先に何かシーツではないものの感触がして見てみると、そこには黒いリボンが一枚、落ちていた。
「これ……」
 顔が赤くなるのが自分でも分かる。が、昨夜のものかと思ったがそのわりに綺麗で皺も少なく、リボンの先にはカチューシャが今にもベッドから落ちそうに なって転がっている。どうやら使用しなかったもう片方らしい。
「こんなものっ……」
 |念動力≪サイコキノ≫で浮かせてゴミ箱に入れてやろうと思った。が、何故かそれをすることが出来ずにいる兵部の困惑と別に、リボンは何か不満でもある かのように、あるいは兵部自身の心のように、緩くゆらゆらと揺れていた。

 部屋を出てすぐに、ただひっかけただけの革靴が脱げかけてあやうく転びそうになる。靴をはき直してエレベーターの前に辿り着くと、エレベーターがこの フロアに停止したままだったので、ネクタイをきちんと締めてから開くためのボタンを押す。
 フロントもない1階の自動ドアから外へ出て改めて周囲を見ると、明らかに繁華街である。
 昨日の夜、パンドラの一同と飲みに繰り出したのは覚えている。が、その時点で、夜になっても戻らない兵部に腹を立てて常にないほど酒を飲んでいたので、 どこかのジャズのホールに入ったあたりから記憶があいまいだ。
「酒が抜ければ、思い出すかもしれないが……」
 自分の酒臭さに自分で閉口しながらもジャケットを探ると、内ポケットにちゃんと財布が入っていてひとまず安心する。服を取ってこいということだったが、 おそらくどこかで兵部の服を買ってこいということなのだろう。
「服……?」
 そういえば、妙な夢を見た。
「空から、少佐が天使になって、女装で降りてきて……?ちょっと違うか…けど……」
 振り返って、ホテルからの道を確かめる。
 真木が見た夢はとても口には出せないような卑猥すぎる夢だったが、その風景の一部と目の前の風景が重なっている気がするのは何故だろう。
「――そうだ、服」
 次いで浮かんでくる景色は兵部が件の姿で立っていた場所の風景。夢の中、不遜きわまりない行為をしていた自分がいた場所でもある。ビルの名前は失念した が、正面から入って右手に非常階段があって、一階と二階とを繋ぐ踊り場に服が置いてありはしないか。きっとB.A.B.E.L.のロゴの入っ た白い紙袋だ。
「まさか」
 呟きながらも、真木は見覚えのある景色を必死で探しながら日中の繁華街を歩いていく。次第にその歩む速度を早めながら。

                                       <終>






   ■あとがき■

  はい!いかがでしたでしょうかハーマイオニー兵部 VS酔っぱらい真木でした。
 ここしばらくやたらと卑猥なものばかりを書いてきていたような気がしてならないのは何故。そして今回もそういうものになってしまった気がしてどうにも筆 が進まなかったのも何故何故。(いえいえ明白ですね、はい)

 まぁそんなわけでハーマイオニー兵部がどこからやってきたかというと、XXXのヒミヤさんちのH22年2月22日(にゃんにゃんにゃん にゃんにゃんの日)の日記を見ればいいと思うよ。つかもうこれは触発とかリスペクトではなくてパクリ な訳ですが。あとひなさんの誘導、あれがなければここまでこなかったかな。皆様の妄想のおかげで最近ネタが抱負なの、ありがとう。ここでプチ私信でした。

 でも自分なりには一生懸命書いたので・・・どうかかわいがってさしあげてください・・・。

                   written by Yokoyama(kari) of hyoubutter 2010.03.02