hyoubutter
ABOUT
NEW
TEXT
BLOG
twitter
ANOTHER
OFFLINE
LINK
MAILFORM



 
 
 
 

 
 
逆光
 
 

BACK TEXTPAGE
OLD CONTENTS
NEXT CONTENTS



 部屋に水を運ぶという名目で、兵部の様子を見たかったのは確かだ。
 ナイとハンゾーを、ひいては「雲井悠里」を今後どうするのか、多少ふざけたりはしていたが真摯な話し合いが続き、なんとか互いの距離の線引きが決まった 後に、兵部は自室に戻ってしまった。
「……」
 兵部の部屋の前でノックしていいのかしばらく迷うが、自室に戻る直前に兵部が真木に投げてきた目線が気にかかっていた。
 求められている、と直感的に思った。この直感が外れてないことを祈って――

 自らの部屋の扉をノックされる音に、兵部は目を覚ます。
 眠っていた訳ではない。学生服姿のままベッドの上に横たわって目を閉じ、現実と眠りの境目を漂っていた。丁度逆光になるのが眩しくて目を閉じていたらこ うなった。
「どうぞ」
 だから無防備にも部屋の扉をノックしたのが誰なのかを確認せすに、学生服の前を開いた姿のまま入室を促してしまったことに、身を起こしながら気付く。
「失礼します」
 恭しく扉を開けて入ってきたのは真木だった。その姿を認めて、ベッドから身体を起こす。
「どうしました?どこかお加減でも?」
「横になってただけだよ。真木は?」
「水をお持ちしたのですが」
 顎を上げて真木を見ると、手に水差しとグラスの載ったトレイを持ってきている。言われてみれば、日の当たる部屋の中は少し暑く、喉も渇いている気がす る。
 真木が背を向けてベッド脇の棚の上にトレイを置いている間に、兵部はひそやかにワイシャツの前のボタンを二つ、三つと外していく。
「ありがとう。飲ませてくれる?」
 髪をかき上げるふりをして乱れさせると、こちらを向いた真木の目線がシャツの合間にしばし釘付けになって、次に頬を染めながら水差しからグラスに水を注 ぐのを確認する。
「……どうぞ」
「んー」
 グラスを差し出した真木にふるふると頭を横に振ると、真木が困惑した顔をした。自分でも趣味が悪いとは思うが、真木のこういうふとした時に見せる顔は幼 い頃から変わっておらず、だからつい困らせてみたくなってしまう。
「口移しがいい。じゃなきゃやだ」
 純情な真木には酷な仕打ちだったかもしれない。顔を真っ赤に染めて、おろおろと水差しとグラスと兵部とを見比べている。
「冗談だよ」
 その一言に真木はほっとするかと思ったのに、逆の反応を示した。
 少しむっとしたような顔をして、グラスから水をあおる。
「おい?」
 怪訝に思う間もあればこそ、二の腕を掴んで身体を引き上げられると、兵部の唇に真木の唇が押し当てられる。隙間から、真木のにしてはやけに冷たい舌が唇 を割って入り込んだかと思うと、ひやりとした液体が口内に溢れ、飲み下す。と、それはやけに甘く感じた。ただの水のはずなのに。
 真木が後ろ手にトレイにグラスを置く音で我に返る。たったこれだけの接触で酔ってしまったなんて知られたくないのに、気付かれていないと思うのもまた腹 立たしい。自分でもわけのわからない感情に当惑しながら、気付けば自分の二の腕を掴んだままの真木の手に自分の手を重ねていた。
「少佐」
 自分を見る真木の目線が、ひどくまっすぐで熱い。あたたかさと眩しさに瞳を閉じると、真木の唇がもう一度兵部の唇に降りてきた。

 水気を帯びた、けれどいつも通りに熱い舌が兵部の口腔内をさらっていく。はじめはおずおずと、次第に大胆に。水音を大きく室内に響かせる口付けに、唾液 が顎を滴り落ちる。その水滴を追うように、真木の指が兵部の鎖骨を撫で、シャツのはだけられた胸へと降りていく。
「……んっ……」
 シャツの合間から入り込んだ指先が胸の尖りを掠めると、思わず声が出た。鼻にかかった、露骨なくらい甘い声。
 真木の手でベッドへ仰向けで横たえられると、学生服の上着を脱がされ、シャツのボタンを外されて。
 その大きな体で逆光が遮られて、丁度いい。
 求めたものを与えられることにすっかり慣れきった身体は、これから与えられる快感の予感に震えている。真木の手が兵部を愛撫するたびに、ゾクゾクと暗い 悦楽が兵部を包む。
 それは全ての着衣を脱がされ、真木もまた己を包む布を取り去った後でも去ることはなく、否、ますますの愉悦となって期待を膨らませる。そして真木が期待 を裏切らないことはわかっていた。枕元の引き出しから潤滑液を取り出し、蓋を開けようとしたところを止める。
「……?」
「自分でする」
 真木は尚も目を瞬かせていたが、潤滑液の蓋を開け、兵部が自らの手にそれを纏わせると、なんのことか察したらしい。兵部が身体を折り、足を大きく開くの をじっと見ている。
 真木のものは堅く勃ち上がっていて、兵部の中に入り込む時を待っている。兵部もまたそれが己を犯す時を思い浮かべながら、己の指を秘部へと入り込ませ る。
「う……っ」
 潤滑液がきいているとはいえそこは狭く、侵入を拒もうとする。内心では少し焦れながらも時間を掛けてほぐしていくと、身体が熱を帯び、息が荒くなる。
「…ううっ……ん」
 熱を逃がすように喉をのけ反らせて息を吐くと、いつの間にか至近距離に迫っていた真木が、兵部の首筋に吸い付いてきた。ちゅう、と跡がつくくらいまでき つめに吸われて身体がビクリと反応する。
「真木……っ」
「俺にも手伝わせて下さい」
 情欲を滲ませた顔でそう言われると、兵部は頷くしかない。真木は嬉しそうに兵部の胸へと再度手を伸ばすと、薄紅色の突起をこねるようにして刺激してく る。
「あ、っ……」
 自分が施している場所から得られる快感とは少し違うものに反応して、指のほうがおろそかになる。それに気付いて再度指を動かすと、明らかに先刻よりもス ムーズにその場所は己の指を受け入れはじめる。
「ふぁ、ん……」
 真木はといえば兵部の乳首を片手で弄りながらもう片方を舌で転がすように刺激している。気がつくとそちらの快感に感覚を持って行かれそうになりながら、 必死で指を動かし、その場所を広げて真木のものを受け入れる準備が整うのを待つ。
 指二本でも物足りなさを感じるようになって、兵部は真木の名を呼んだ。
「真木…」
「はい」
 臍を舌先でつついていた真木が顔を上げる。兵部はその唇に軽くキスをして、身体を少し離すと足を大きく上に掲げ、一番恥ずかしい場所を自ら拡げて真木を 誘った。
「来て――真木」
 瞬間、獣の瞳になった真木が兵部の足を固定して己をそこへ宛う。いつもなら兵部の身体への配慮を見せる真木が、今日ばかりは違っていた。
「ああ、あああぁっ!」
 乱暴に奥深くまで突き刺し、今はまだそれ以上を受け入れる準備ができていないというのに、めちゃめちゃに抽送を始める。自分勝手で一方的な動きが兵部を 翻弄する。
「あ、んんっ……あぁ、っ」
 本当は苦痛のはずの侵入に歯を食いしばり目をきつく閉じて身を任せていると、真木の蹂躙が次第に快感に変わっていく。
 これは何だろう。馴染みのない感覚に、ただ馬鹿みたいに声を上げるしかできない。
「あ、んっ、ああん、ん――」
 やめろ、とか、痛い、とか、他に言うべきことはあるはずなのに、口を衝いて出てくる声の甘さだけが変わらない。
「全部、入りましたよ」
 言われてはじめて、真木がその動きを止めていること、自分が真木の猛りを呑み込んだことを知った。
「――大丈夫でしたか?」
 心底申し訳なさそうに問われて、思わずそっぽを向く。
「……」
 真木は少しショックを受けているようだが、そうじゃない。そうではないのだ。
「無粋なこと聞かないの。大丈夫じゃなきゃ、そう言うよ」
 結局はすべての感覚は快感へと昇華し、兵部は真木を受け入れきった。
「でも……すいません、負担を掛けてしまって」
 これだけはっきり言っても真木には伝わらないらしい。もどかしさに、その頭をひきよせて額と額をぶつけるようにくっつける。少し体勢的に苦しいが、そん なことは知ったことじゃない。
「?」
「本当に負担だったら、こんなに感じないってこと位、分かれよ」
 至近距離で目を覗き込んで告げると、ようやく真木も兵部の真意を理解したらしい。今この時はこの場所では何をしてもいいということに。
「少佐」
 嬉しそうに唇を押し当てて頬に、額に、そして唇にキスをしてくる。
 少しくすぐったいような感覚をおぼえながら真木のキスを受け入れていると、身体が揺れた。
「…ん?」
 疑問を持てたのは一瞬だけで、その直後に真木と繋がったところから伝わる快感に、真木が再度身体を進めて兵部の快感を揺さぶりだしたのだと知る。
「んっ、んんっ」
 キスの合間から声が漏れ出すが、真木は遠慮なく兵部を突き上げてくる。遠慮を取り去った真木の動きは激しく、繋がったところが酷く熱い。熱い。気付くと 体中が熱い。
「あああ、っ!」
 真木が兵部の両足を更に押しつけるようにして角度を変えると、身体に電流が流れたかのような強烈な感覚が身体を駆けめぐる。
「ここが、そんなにいいですか?」
 どうやら身体の変化に真木は気付いていたらしい。見透かされたことへの羞恥心は、真木が猛った己のもので再度そこを擦ることで霧散してしまう。
「あっ、ああ、あああんっ」
 その場所だけを執拗に責められて、すぐに限界を迎えそうになる。
「うあ、ん、やぁ、まぎっ…」
「何が嫌なんですか?」
「いくっ、いっちゃう……あ、っ」
 ふ、と真木が笑う気配がした。嬉しそうに、愉しそうに。
「感じやすい人ですね、本当に」
「ひゃああんっ!」
 快感の頂点へと駆け上る。もう駄目だ、と明確に思った時、真木もまた苦しげに眉を寄せるのが遠くに見えた。
「ああ、あああん、あっ」
 腰の震えが全身に行き渡り、兵部の白濁液が真木の腹を汚す。真木の動きはそれでも変わらなかったが、少しの間遠慮がちに動いたかと思うと、あたたかいも のが繋がったところから滴り落ちてくるのがわかった。
「真木――」
 どうやら真木も兵部とともに吐き出したらしい。けれどそこで終わらなかった。
 繋がったまま姿勢を組み替えて、兵部に四つんばいの姿勢を取らせると、衰えを見せない男根を兵部に埋め、貪りだした。
「ひあっ、真木、まぎっ――」
 今日はこのまま真木に嬲られ続けるのだろう。貪欲に、貪り尽くすまで。
 それもいい気がした。
 この男の影で、何も――太陽の眩しさも感じることなく、溺れ続けられるなら。
 闇の中に逃げられたなら。

 現実は、あのあととことん兵部を貪りつくした真木に、汚れたシーツを取り替えるからとベッドから降ろされて、椅子に座って待っている。その間も真木がか いがいしく部屋の後始末に走り回っている。
 部屋の逆光が眩しい。世界が光で埋め尽くされて、自分の居場所がなくなりそうだ。
 いや、もとより自分なんかその程度の存在なのかもしれない。
 目を細めたその時、後ろから急に抱きすくめられる。
 首だけ後ろを向くと、首筋に顔を埋めた真木の、瞼を閉じて震える睫毛が見える。
「どうしたのさ」
「貴方が……消えてしまいそうに見えたので」
「……そんなことないのに」
 今はね、と心の中で付け加える。
 今は。君の腕の中にいる間は。
「僕は今ここにいるじゃないか」
 いつか消え去る日までは。
 僕はここにいる。
 眩しさから目を背け、浅ましく求めて。
 光に怯えながら。憧れながら。

                                      <終>



   ■あとがき■

 お題: 杏里様よりキリリク「真木×兵部で誘い受けH」でございました。


  11月11日更新です。最近あまりエロアップしてないなーと思っていたところに絶妙のキリリクが来たのでノリノリで書かせていただきました!いつも応援& キリリクありがとうご ざいましたー。誘い受けってこんな感じでよろしかったでしょうか・・・・?(そわそわ)
 タイトルは某戦国ゲームのEDソングより。素敵曲なのに生かしきれてません。

                  written by Yokoyama(kari) of hyoubutter 2010.11.11