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ビフォア父の日
 - before father's day -
 

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「ハロー、真木。」
 身も蓋もない言い方をしてしまおう。
 この上なく愛しい人が、裸で、ピンクのエプロンをして、目の前に現れた。
「なっ……」
 二の句が継げないとはこのことだ。
 真木は精一杯頭の中を整理して、目の前の兵部がいったい何をしているのか、に思考を集中させたが、いい答えが浮かぶはずもなく。
「なんて恰好してるんですか!」
「えー、裸エプロン?」
「裸エ……」
 そういえばミニスカート姿の女性の、膝上まである長さのソックスに劣情を感じる人種がいると聞いたのと同様に、裸にエプロンを着用するのを喜ぶ人種がい ることを聞いたことはある。あるがしかし、自分はその人種ではない。
「……貴方の中で俺はなんなんですか」
 もしそういう人種だと思われたなら、残念ながら違う。自分が好きなのは兵部であって、その衣装ではない。
「とにかく、何か着て下さい」
 頭痛を覚えながら、スーツのジャケットを脱いでエプロンの上から兵部に着せて、しっかりと前のボタンもとめる。
「男ならこういうのに憧れるって聞いたんだけど」
「それはどうも、申し訳ありません」
 頭痛薬はどこに置いてあったろうか。目のやり場に困って部屋をきょろきょろとせわしなく見回していると、兵部がムッとした顔で詰め寄ってきた。
「なーんだよ。人がせっかく先手を打って父の日のプレゼントしにきたのに」
 そういえばそんな話もした。だがしかし、母の日のプレゼントのお礼に父の日のプレゼントは真木から兵部に贈ることになっていたはずだ。残念ながら忙しさ にかまけてまだなんの準備もしていなかったりするのだが。
「裸エプロンが、ですか……お気持ちはありがたいですが、まったくもって喜べません」
 むしろ兵部に変な露出癖がついてしまうほうがよっぽど困る。
「お前の前だけでだからいいじゃんか」
「おっ、俺にそんな性癖はありません!」
 むしろいつもの恰好が一番似合う。ぴったりとフィットして身体のラインが見える学生服姿のほうが、何というか、兵部らしくて好ましい。まだ兵部が父代わ りで、自分がその養い子でしかなかった頃からずっと見慣れているのだ。もちろん、喪服と聞いて以来、そんなことは口に出したことはないが。
 なんだよもう、とぶつくさ言いながら、真木の上着の内側に手を入れてもそもそとエプロンを外す。どうやら真木のエプロンではなく、このために新しく買っ たエプロンらしい、見覚えのないものだ。
「あっ――」
 思わず声が出てしまった。しまった、と口を押さえるが兵部の興味をひいてしまったらしく小首を傾げて真木を見上げてくる。
「どうしたのさ?」
「いっ、いえ、何でもありませんっ」
 言えない。エプロンを取り去ってしまったが故に兵部の股下ギリギリの長さになってしまった上着から見える足に、思わず目が釘付けになってしまったなど と。白くすらりと伸びたそれに触れたらどうなるだろうと考えてしまったなどと。
「ふうん?」
 がしかし、兵部はにやりと笑うと更に真木に詰め寄ってきた。思わず後ろに退がる真木。
「顔が真っ赤だよ?」
「いえ、その、それはっ!」
 更に一歩退がる。二歩詰め寄られて、またまた後ずさりをするが、ついにベッドの縁に足が当たって止まってしまった。
「それは?」
「それは……あの……ええと」
「じゃあ僕から聞いてあげる。さっき、どこを見て真っ赤になったのかな?」
「〜〜っっ!」
 兵部は分かって言っているのだ。真木の恥ずかしい想像を。
「何、考えてた?」
 最後にもう一度笑うと、両手を前につきだして真木をベッドの上へと倒して、よじ登るように上に乗ってくる。いけない。そんなことをしたら太股の付け根の あたりがちらちらと視界に入ってくる。あられもなく開かれた両足の質感に目が惹き寄せられる。いけないいけない、自分は何を考えているのだ。
「君の身体に聞いてあげる――おや、これはなんだろう。僕の太股に当たる硬い――」
「わかった!わかりましたっ!すみませんでした、欲情してましたっっ!!」
 一気に言い切ると、何故か胸が軽くなった。したり顔でにやついている兵部に対しては、少し悔しい思いもあるが。
「あまり、あからさまに誘わないで下さい」
「僕が君を誘っているのなんて、裸エプロンでここに来た時点で明白じゃないか」
 ……たしかに、言われてみれば。詰め寄られて初めて気付いたのは、遅すぎだったかもしれない。
「そんな訳で、真木。僕への父の日のプレゼントは、君がいい」
 真剣な目で言い切られて、どきりとする。
「だから、ちょうだい?」
「……はい」
 頷くと同時に兵部を抱えて立場を逆転させる。兵部をベッドに押しつけて、今度は自分がその上に乗る。
「ここまで煽って頂いたんですから」
 指でジャケットの裾のラインを辿って尻へとたどり着くと、太股の後ろ側に手を添えて足を浮かせて、白く、均整のとれた長い足を撫でながら。
「ご期待に添いましょう」
 そう言うと、露わな太股に口づけた。


                                        <終>




   ■あとがき■

  母の 日と連動のはずだったのですが、あまり続いてません。

                  written by Yokoyama(kari) of hyoubutter 2010.07.17