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電話 
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「もしもし。僕だよ。やだなぁ、分かってるくせに」
 シャワールームから出て来ると、兵部が携帯電話で通話をしていた。
『おかえり』
 頭の中にテレパシーで歓迎の言葉が送られてくる。が、なら何故その電話を止めようとしないのだろうか。やけに浮き足立った仕草や口ぶりから察するに、仕 事の関係ではなさそうだが――
「そう、ご名答。何って、そりゃ、チルドレンの声が聞きたくてね」
 チルドレン。ということはひょっとしてバベルの。通話相手は皆本とかいうあのメガネか。
「せっかくのクリスマスだし、一人一人と話をさせてくれてもいいだろう?あ、君とは別にどうでもいいけどね、皆本君」
 せっかくのクリスマスなのに、シャワーを浴びてきたら相手が他所に電話していた。なんだか腑に落ちないものがある。机の上にはケーキや紅茶も用意してあ るのに。最も、パーティで兵部が口を付けなかった分を夜食代わりになるかと持ってきただけの話ではあるが。
 今年はシュトレンという、フルーツパンに粉砂糖をまぶしたようなパウンドケーキに似たものを作ってみたのだが、兵部はオーソドックスでスタンダードな食 べ物を好む傾向があるから、それとは別に兵部と小さい子達用にイチゴのショートケーキも用意してある。ここに置いてあるのは後者だ。
「まっさかー、君たちの楽しいパーティを台無しにしようなんて思ってないよ?……そうそう、君よりも|女帝≪エンプレス≫のほうが理解あるじゃないか。ぜ ひ代わってくれ」
 その上、兵部がこの上なく楽しそうな顔をしているとなると、その笑顔自体が嬉しくないはずはないのに、何故かもやもやと心と体が疼く。
「ああ、|女帝≪エンプレス≫?………うん、……うん、ははっ、相変わらず手厳しいね――んっ?」
 くれぐれも、天に誓ってもいいが、この時真木には兵部に何かしようなどという意志はなかった。あるはずがない。なのに。
 兵部がきょろきょろと当たりを見渡すと、見慣れた炭素繊維が、兵部の携帯を持たない方の手先に伸びていた。ソファに寝そべっていた上体を少し上げ、ぱち ぱちとまばたきをしながら真木に疑問形の目線を送ってくる。
「なっ、何でもありませんっ」
 電話の相手に聞こえない程度の声で否定すると、慌てて髪を自分の手で取り除く。その時兵部の手に真木の手が触って、兵部はまた軽く息を呑んだ。――もし かして。
「――うん、うん、そう、君たちが楽しんだならいいんだよ」
 怒りに頬を赤らめて睨み付けて来た兵部に、真木は試しに平たい炭素繊維の手を袖口から内側へと入りこませる。
「あっ――、――いや、何でもない。……それで?……」
 こうなってくると、互いに意地である。なおも通話を続けようとする兵部を組み敷くようにソファへと覆い被さると、兵部の首筋にキスをした。
「ひゃ――んっ、そ、そうだね、じゃあ|女神≪ゴッデス≫に代わってもらえる、かな」
 一度耳の裏まで舐め上げると兵部が息を飲む。こうまで近づくと、電話の相手の会話のニュアンスも掴めてきた。
『――うちかて別にアンタと話したい訳や…て、……やから、せっかくやし…………』
「うん、そう、|女神≪ゴッデス≫は優しいね。もちろん褒めてる――ん、だ、よ?」
 舌を這わせるたびに兵部の呼吸が乱れる。そうまでして通話を続ける理由も、力づくで自分を拒否しない意味もわからない。やがて兵部がソファと頭の間に携 帯を挟むようにして会話を初めてしまったので、また会話の内容が聞こえなくなってしまった。
『………、…………。――……』
「ああ、ありがとう。|女王≪クイーン≫とは是非話したい。君と話せてよかった、よ……っ……、|女神≪ゴッデス≫」
『――』
 兵部の言葉を最後にしばらく携帯電話が沈黙した。と、兵部が目尻を紅色に染めて通話口を手で覆って真木に向き直った。
「何するんだよ!僕はこれからクイーンと……」
「嫌ならはねのければいいじゃないですか」
 それをしないのならばきっと、この行為は許されているということなのだろう。
「真木、覚えてろ――はぁ、んんっ…!」
 小さな耳を軽く噛むと甘い声が上がる。羞恥に首筋まで真っ赤に染めて、でも感じている。
『――京介?』
「や、やあ、|女王≪クイーン≫」
 携帯電話を覆っていた手を外し、再び通話が始まる。先の相手――ゴッデスよりも今のクイーンの声のほうが大きいので、会話がつぶさに聞きとれる。
『ねぇそのクイーンって止めてってあたし言ったよね?紫穂も葵も、せっかくだから名前で呼んでくれたほうがいいな』
「ああ、それは済まなかった。でもこれは僕なりの――っ!」
 耳に舌を入れると兵部の会話が不自然に途切れる。
『京介なりの?』
 相手は特に何も思っていないようだ。真木が兵部の耳への刺激をなおも続けながら、仰け反った背中に手を廻し愛撫すると、声にならない熱い吐息が真木の頬 にかかる。
「そう、僕なりに、敬意を払って――あ、っ――ああ、ごめん。敬意のつもりなんだけれどね」
 絞り出すように最期の文節を一気に言い切ると、電話の向こうから異議が唱えられる。
『ねぇせっかくのクリスマスなんだし、いいじゃん、お互い呼び捨てで』
「じゃあ、薫……と呼べばいいのかい?なんだか、照れる――っ!」
 学生服の裾からシャツの中に手を入れる。言葉が不自然に途切れた。
『やーだ、照れてるなんて、京介もウブなところあるじゃん!実はさー、皆本はもうあたしらのこと呼び捨てにするの当たり前になってるみたいで新鮮味が ねー……』
「……く、ぅ……っ」
 真木の執拗な責めに体のほうは屈しかけているらしい、すっかり体中に熱がゆき渡り、触れられるたびに感じているようだ。
 そして耳から首筋にかけて軽く吸いながら鎖骨の上を舌で辿る。兵部はここが弱くて、いつもならすぐに力が抜けてしまうのだが。
「う、ぁ、……んっ」 
『――京介?』
 幾度か沈黙が続いてさすがに不審に思ったらしいクイーンが、兵部の名を呼ぶ。
「ああ、何でもない、ちょっと……コーヒーを零しそうになった、ところ……だから」
『ちょっと、大丈夫?やけどとかしてない?』
「あ、うん……んっ、そう……大丈、夫」
 兵部が悩ましげに体をよじるようにして快感に抗っている。先刻までと反対側の鎖骨を唇でなぞりながらシャツのボタンを一つ外した。
『どうしよ、じゃあ切ろうか?』
「いや、平気――」
 どこが平気なものか。真木の存在を無視した台詞に、さすがの真木も多少の憤りを感じながらもう一つボタンを外す。そして手を差し入れた、その時。
「――真木、駄目っ」
 鋭く、けれどどこか熱っぽい声で兵部が真木を制止する。
『京介?どしたの?』
「ああ、ええと、その――」
 真木が手を引き抜いて体を起こすと、兵部も自分の失態に気付いたらしい、必死に取り繕おうとしていたようだったが。
「ごめん、|女王≪クイーン≫。ちょっと……ヤボ用で、今日はここまでにしておくよ」
『うん、わかった。なんか忙しそうなのに、わざわざありがとね』
「いや、こちらこそ。じゃあ、ね」
 微かに震える手で兵部が携帯のボタンを押して通話を切ると、真木を改めて睨み付ける。熱のこもった瞳で。
「――何するんだよ、こんなっ……」
「わかってますよ」
「え?」
 一度は引き抜いた手を再度胸に滑り込ませて、胸の尖ったところを指で爪弾く。
「あっ――」
「ここに触れられるのが、嫌だったんですよね。感じすぎてしまうから」
「っ……・」
 真木だとて日々緩慢に兵部を抱いている訳ではない。どの場所をどんなふうに愛撫するとどのくらい感じるか、なんてこと位は分かっている。
「真木の、馬鹿!この色情魔!」
「ずいぶんと酷い……サンタと言ってほしいくらいですが」
 プレゼントは勿論別に用意してあるが、それはそれ、今は今、だ。
「どこが!?――はぁ、んっ……」
 ずいぶん我慢していたのだろう。反対側の胸の飾りを舌の先でつつくと、兵部がまた嬌声をあげる。
「貴方に快感を届けるために、今日の俺は来たんです」
 そして自らの腕の中で感じる兵部の姿を独り占めするために。
 この位のささやかな見返りならもらってもいいはずだ。その為に来たのに別人と電話の最中で、なんてささいな理由で嫉妬することがあったっていいだろう、 年に一度くらい、そう、プレゼントとして。
「――」
 兵部が急に黙りこくったので、真木は顔を振り仰ぐ。先刻までと変わらず顔を真っ赤に染めたまま真木を睨め付けていたが、ふとその頬が緩んだ。涙の浮かん だ目尻の形も笑いのそれに変わる。
「――極上の快感じゃないと、イヤだぜ?」
「……勿論です」
 言い切った真木の顎を兵部が掴んで引き寄せて、そしてキスを施される。兵部がこの後の真木の行為を全て受け入れる合図に、真木には思えた。

 兵部の身を包むものを取り去ってゆくと、華奢な足の付け根で兵部の熱が頭をもたげている。けれど兵部は恥じることもなく、真木をじっと見つめている。
「どうかしましたか?」
「ううん、別に」
 とは言われても、服を脱いでいる間じっと見られているというのはなんとなく居心地が悪い。焦っているように思われない程度に素早く服を脱いで振り返る と、兵部の頭の横に置いたままの携帯電話が目に入った。
「電源、落としておきますね」
「いや、いいよ。もしかしたら|女王≪クイーン≫あたりから連絡が来るかもしれないし」
 この期に及んでも、兵部はまだチルドレンと話し足りないらしい。もっとも邪魔をしたのは自分だから大きな事は言えないが、自分の優先順位の低さを見せつ けられたようで何ともいえない翳りのようなものが真木の心に影を落とす。
「どうしたのさ?」
 どうしてくれようか。真木は考えあぐねた末に、テーブルの上のケーキに手を伸ばした。
 正確には、ショートケーキのデコレーションの生クリームを指に掬い取って、兵部の一番恥ずかしい場所へ手を伸ばした。
「ちょっと、真木っ?」
 兵部が手を突っ張るようにして身構えるが、快感に足を開いたままの場所にたどり着くのは容易で、クリームごしに窄まりに触れる。
「ひゃあ、っ」
 ぬるりとした質感と共に指の一本が秘部に入りこもうとする。
「今日はローションは不要ですね」
「なにしてんのさ!」
 兵部はなにやら吠えているが、まだこれだけではない。
「どうぞ」
「?」
 いきり立つ兵部に、携帯電話を持たせる。ついさっき通話していた時のように。
 そして指に纏ったクリームを存分に塗りつけた後に、汚れていないほうの手で真木自身のジャケットのポケットに手を入れて自分の携帯電話を取り出し発信ボ タンを押した。
 すぐに兵部の携帯が鳴り出す。真木の携帯からの電話だ。兵部はきょとんとして真木と携帯とを交互に見ている。
「出てください。通話にして」
「?」
 よくわからないなりに真木の言う通りに従った兵部の姿を確認してから、兵部の足下に跪いて、携帯を口に当てる。
「これから、貴方を暴いて差し上げます」
 そう告げて、携帯を兵部の秘部近くに持ち替える。
 真木の意図を掴めずに目を丸くしている兵部の目の前で、真木は秘部に当てていた指の一本を音を立てて潜り込ませた。
「あ、ぅっ――」
 真木の指が入り込んだそこはいやらしく蠢いて、快感を享受している。
「きつくないですか」
「大丈夫、だけど、真木、これ――っ!」
 大丈夫という言葉だけ確かめると、携帯を股の間にセッティングしたまま、指をゆっくりと出し入れし始める。
 クリームがぬぷりという音を立てて、その音は真木の携帯を通じて兵部の耳に当てられた携帯へと届けられる。
「ほら、聞こえるでしょう?貴方の音ですよ」
「うぁ、んっ」
 一番奥まで指を侵入させると今度は左右に円を描くようにすると、兵部が悦楽の声を漏らす。
「あ、ああ、っ」
「もうこんなに感じてしまって、この先大丈夫ですか?」
「それより、真木、この電話――」
「あまり聞こえないですか?」
 そう言うと指を引き抜いて、今度は二本そこへと侵入させる。
「ああっ、ぅ……!」
「二本に増やしました。まだ大丈夫そうですね。いやらしい音をたてています」
「音を立ててるのは、お前だろ、真木っ――あっ……!」
 兵部自身が発した声と、真木の手元の携帯から漏れ聞こえる声が奇妙なステレオ音になる。兵部の秘所をまさぐる指の音も、こんな風に聞こえているのだろ う。
 そう思うと嫌でも興奮が高まってきて、指をバラバラに動かすように抜き差しを繰り返すと、兵部が嬌声しか紡ぎ出せなくなってくる。
「ぅ――、あっ……んっ」
「ああ、今日はほぐれるのが早いですね。もっと増やして欲しいですか?」
 兵部は携帯にしがみつくようにして屈辱と快感に耐えている。それとも享受しているのか。
「三本にするには、少し潤いが足りないでしょうか」
「ん……」
 どちらかというと兵部は甘んじて受けているように見えた真木は、兵部の中から指を引き抜く。
「…?……」
 荒い息を整える兵部からは、不満の気配を感じる。もっと感じさせて欲しいと体ごと訴えられているような。
「失礼します」
 携帯を持った手はそのままに、さっきまで指を突き立てていた場所に舌で触れた。
「う、んっ……!」
「甘いです」
「当たり前、だろっ……!」
 耳に当ててはいないものの、二人で通話しているような距離に、真木の期待も高まって、生クリームを纏ったその場所にがっつかないように舌を伸ばし、唾液 を塗り込めるようにしながら玩ぶ。
「う、ふぁ……っ」
「――大分潤いました。三本に増やしますよ」
 舌で周囲を舐め溶かしながら三本に増やした指を入れると、兵部が鋭く息を詰める。
「ひ、っ」
 反射的に締め付けてきた兵部の中をこじ開けるように、三本の指がクリームと唾液とを纏って|侵入≪はい≫りこむ。
「締め付けてきますね。そんなに期待してたんですか?」
「あ、ぅ、……ん……っ」
 もはや返事のできなくなった兵部の中をかき回すように、三本の指を自在に操りながら高く音を立てる。
「聞こえてますか?もう携帯なしでも聞こえますよね、いやらしい音が響き渡ってます」
「あ……あ……あ、真木……っ」
 兵部がついに携帯から手を離して、真木にしがみついてきた。
「どうしました?」
 兵部の身体は快感に震えているが、それは同時に何かに耐えているようでもある。
「入れ、て……」
 熱い吐息と共に囁かれて、真木の情欲も否が応にも高められる。
「――指では足りませんか?」
「足りな、い…っ」
 とぎれとぎれの声はひどく耳に心地よく、同時に真木の獣性にも|焔≪ひ≫が灯る。
「わかりました」
 その時初めて自分の携帯電話を切ると、脱いだ服の上に放り投げて兵部の両足を開く。胸の尖りがツンと立ち上がっているのが見えて、腰の奥のあたりが熱く なる。
 そして最も熱くなっている己の欲望を、先刻まで指で犯していた場所へとあてがう。
「――入ります」
「あ、あ――」
 ぬるりとした感触に押されるように体を進めた。兵部の中へ。
「あああ、ぁあぁんっ!」
 真木にしがみつく腕の力がきつくなる。真木の身体を反らせるような形で引き寄せられることに抗うように、僅かに背を丸めて兵部への侵入を続ける。
「あっ、あ、うぅ…んっ」
「くっ――」
 いつもより容易な侵入だとはいえ、やはり苦しさはぬぐえない。兵部の腰を捕まえて固定すると、最期の距離を一気につめた。
「あああんっ!」
「しょう、さ――」
 ひときわ強く締め付けられたかと思うと、腹に暖かいものが当たった。同時に兵部の胎内も同じリズムで痙攣を繰り返す。兵部が達したのだ。
「――ク」
 一緒に持っていかれそうになりながらかろうじて踏みとどまる。すんでのところで時間をかけて自分を抑えきると、ふと気付くとしがみついていたはずの兵部 が上半身をソファに投げ出していた。
「……きつかったですか?」
 閉じていた目を開いた兵部は、緩く顔を横に振る。
「逆……気持ち、いい……すごく」
 確かに半目を開いて快感の残滓に酔う姿は、満足げに見えた。
「足りないということはありませんか?」
「何言ってるのさ、真木」
 兵部が心底呆れた、という風に真木を真っ直ぐに見据える。
「全然足りない。もっと、頂戴?」
 なんて言って、夢見るような顔で笑うものだから。
「――!」
 そこに遠慮はなかった。真木は思うままに自分の腰を兵部のそれへとぶつけるように抽送を始める。
「あ、あぁ……あ…」
 兵部は一度達して余計な力が抜けたようで、正面から満足げに真木を見ながら、時に真木の腕に爪を立てる。
 実のところ、真木は自分の自制心に対して自信がない。兵部を目の前にすると、結局は手に入れないと気が済まない自分に気付いてしまうからだ。
 でも今は。ともに快感を享受するこの瞬間だけは忘れることができる。
 ――溺れることが許される。
「あ、あんっ――ああっ」
 抽送の速度を緩めて兵部の身体をあらためる。白い肌、しなやかな体躯。痛々しい過去の傷を横目に胸の飾りに舌を這わせると、びくりと体を震わせて、同時 に繋がっているところも締め付けてくる。
 快感の中枢に直接作用してくる動きに、今すぐにでも自分を解き放ちたいという衝動が頭をもたげてくるが、もう片側の胸の突起をゆるく噛み、残ったほうの 尖りは指でこねるようにして責めることで欲望を紛らわす。
「あ、んっ、真木っ……」
「気持ちいいですか?」
「うん、うん……気持ち、いい、真木――」
 真木の下腹部に当たる兵部の男根は再度勃ち上がって、先走りの滴を流している。
「またイッてしまいそうですか?」
「わかってるなら、聞くなっ……!」
 胸から唇を離した途端に強気になった兵部の振る舞いに逆襲がしたくて、兵部の熱棒を握りこむ。
「あア、ンっ!」 
 熱い滾りに涙と同じ温度の滴を塗り拡げながら、時に先端に軽く爪を立てるようにくじくと、痛みと快感の中間のような顔をして兵部が頭を打ち振るう。
「凄い、締め付けられて痛いくらいです」
「あ、だって、もう――」
「もう、いきそう、ですか」
「う、ん――」
 快楽を目の前にした兵部は素直で、普段のこまっしゃくれた態度とはまるで別人だ。
 そんな姿を知るのは自分だけでいい。
「少佐」
 こんな風に乱れるのは自分の前だけであって欲しい。
「真木?」
「もう、いいですか?」
 想いを、兵部の中へと注ぎたい。そう告げたつもりだ。
「――いいよ、真木」
 兵部がふ、と笑う。優しい声で許可を下す。
「一緒に、イキたい」
「はい」
 兵部の腰を折るような姿勢から、更に足を揚げさせて兵部の一番奥を突く。
 エゴにまみれた己を貫くように。
「あ、真木、まぎっ――」
「少、佐――」
 めちゃくちゃに動かしながらも兵部の唇にキスを落とすと、兵部の舌が真木に応える。
 と、真木の唇を振り払うように兵部が高く声を上げた。
「駄目、イッちゃ……やぁ、あああ、っ――!」
 兵部が大きく体を仰け反らせる。真木はそれにしがみつくように腰を抱くと、兵部の迸りが真木の身体を打つ。
 その感覚に酔いしれながら、真木もまた兵部の中で自分を解放した。
 どくどくと、想いごと注ぎらんばかりに。

 ベッドと違ってソファのほうはカバーを洗うしかない。真木が後始末をしている間、兵部はベッドで真木の残り香に包まれていた。
 こうしてまどろんでいると、何もかもがどうでもいいような気になってくる。変えたい未来も変えられない過去も、|女王≪クイーン≫に関することですら。
 けれどこういう瞬間があってもいいはずだ。全てから解き放たれる瞬間が。
「――真木」
「はい?」
 ソファのカバーと格闘している真木に声をかけると、頭だけこちら側に振り向いた。
「罰を言い渡す」
「罰、ですか」
 どうやら心当たりがありすぎるようで、あれだろうかこれだろうかと心中で懸念しているのがわかる。
「まず、君がめちゃくちゃにしたケーキは、君が食べること!」
「わかりました」
「それから――」
 指先をクイクイ、と曲げて真木を自らのほうに来させると、ケーキを指して続ける。
「イチゴは僕のものだから」
「……わかりました」
 何がわかったのか、真木はケーキを皿ごと持つと、イチゴに齧り付く。
「あー!」
 異議を唱えようとした兵部の目の前に、真木が顔を近づけてくる。唇には、イチゴを挟んだまま。
 真木に促されるままにイチゴを口の中に受け入れて囓ると、甘酸っぱい香りと、少しだけついた生クリームの味が広がる。
「これで気が済みましたか?」
「……全然」
 もぐもぐごくん、と食べ終わった後に聞かれて、否と答える。
「じゃあ、もう一個……」
「そうじゃなくて」
 兵部は真木に両腕を差し出して、腕の中に誘う。
「メリークリスマス、真木。今度は君を味わいたい」
 そう告げて唇を寄せると、今度は真木のほうが、貪るようなキスを返してきた。
 どうやら、ケーキよりも甘い夜は、まだ長く続きそうだった。

                                      <終>



   ■あとがき■

 クリス マス更新です!皆様いかがお過ごしでしょう。
 エロはちょっと自粛しました。挫折じゃありません。多分。
 ↓(・・・時間の経過・・・)
 やっぱり思い直しました。がんばってエロ書いてます! ←イマココ!
 ↓
 =□○_ ←そしてこうなった。最新のイマココ!

 ええと、少しでも気に入って頂ければ幸い、です……。い、一応がんばって書いた!つもりです……ので。

                  written by Yokoyama(kari) of hyoubutter 2010.12.24