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瓦礫
 - Bed of toles and pebbles -
 

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 皮肉なことに、廃墟にはこと欠かなかった。
 ここが紛争地帯だということもあるだろう。何しろ今は戦争のまっただ中で、ここはその主戦場だ。
 もうすぐ明け方だから自分たちを見とがめるものは少ない。それでも慎重に歩いてとある一つの建物を今夜の寝場所と決めると、兵部は少年二人と少女一人を 連れて比較的瓦礫の少ない場所を選び、埃をよけて寝床を準備する。
 少年のうちの一人、まだ幼児といって良い赤茶色の髪をした子供には昼夜逆転の逃亡生活はきつかったらしく、早くもうとうとと眠りの世界へと入りかけてい る。
 兵部が用意した寝台に大きい方の少年が腰掛け、幼児の癖の強めな髪を撫でてあやしながら隣に寝かしつける。
「国境まであと少しだ、そしたら追っ手も大分減るはずだから」
「いいわ、屋根と寝台のある場所で眠れるだけで大分マシだから」
 少女が現実的な意見を言って、兵部の用意した別の寝台へと腰かける。
「君は眠らないのかい?」
「眠るわ。でもひとつ聞きたいことがあるの」
「聞きたいこと?」
 この言葉には兵部だけでなくもう一人の少年――きっと彼が最年長だろう――も不思議そうに顔をあげた。
「どうしてあたしたちを助けてくれたの」
 少女たちは戦災孤児だった。家族を失うと同時に超能力を開花させ、この国の極秘エスパー研究機関に運ばれ、モルモットにされていた。そこを兵部がかすめ 取るように連れ出した。理由はよくわからない。ただ、助けたいと思ったのだ。それに、無駄な布石にはならないという予感もあった。
 しかしそれが逆に兵部の足を大幅に引っ張った。能力を使えば研究機関にキャッチされて追っ手をかけられるし、そうでなくとも昼間は銃弾飛び交う中では移 動もテレポートもままならず、仕方なしに明け方に廃墟を探して眠り、夕暮れとともに起き出して真夜中に子供の足で移動する、ということを繰り返してきた。
「何度も言ったろ、はじめは気まぐれに近かったけれど、今は仲間だと思ってるって」
 長い長い間誰にも心の内を明かさずに来た兵部にとって、少女の問いに素直に答えるということは、心情を告白をすることであり、ほとんどはじめての行為 だった。
「仲間?」
「そう、今はまだ君たち含め四人だけど、やがてはもっと大きな組織になる。君たちは、その第一歩。僕の心を開いてくれた、いわば――パンドラの箱の鍵だ よ」
 パンドラという大きな箱を開く、鍵。そしてその箱を思い通りの形に造ろうと思ったならば必要不可欠な人材になるだろう。兵部に直接の未来視はできない が、数日間の逃走の間、そう育てると決めた。
「エスパーの住み良い世界のための組織の、君たちは最初のメンバーになるんだ」
「組織?」
「そう。パンドラ、って言うんだよ」
「でもそのために拾ったっていうのは嘘よね」
 女の子らしく、年の割にしっかりしている少女が兵部の目を覗き込むようにして話しかけてくる。
「じゃあ、何故だと思うんだい?」
「さみしかったから、じゃないの?だってずっと一人だったんでしょ?」
 ぽかん、と兵部が目を丸くすると、年長の少年もくすくすと笑いだした。
「寂しかったんだ?アンタ」
「まぁ……そうかも、しれないね」
 寂しかったからかあ、と心の中で兵部は少女の言葉を反芻する。存外、外れていないような気がする。
 祖国を離れ、各地を点々としている間、他人に心を許したことはなかった。ノーマルであれ、エスパーであれ。
 でもそんなさみしんぼうの生き方が、この三人と一緒にいると変わっていくのだろうと思う。
 そしてそれは今までの寂しさの代償としてはけっこういいことのように思えたのだ。
「じゃあ、組織なんてのは二の次で、ホントは家族が欲しかったってことか?」
 少年が長めの黒髪を僅かに揺らしながら発した家族、という言葉に虚を突かれて、兵部はしばらくだまりこむ。
「そうだね。今は僕らはまだ、家族だ。それでいいだろう?」
 兵部は少女の頭をくしゃりと撫でて、微笑んだ。
「さあ、もうお眠り。僕のかわいい幹部たち」
「幹部?」
 何のことかわからない、とばかりに聞き返してきた少年に兵部は口に人差し指を当てて答えた。
「内緒」
 放っておいても、いずれ分かることだ。
 今はただ、大切な家族と一緒に、一刻も早く安全な場所へと移ることだけを考えて。

                                               <終>



   ■あとがき■

 「少 佐」誕生日記念。記念っていうのはいい日のことだけを言うんじゃない、ということを原爆記念日から学んだ世代です。
 某Kさんたちとの兵部さんがパンドラを作ったのはきっと寂しかったからだよね!という話題から、こういうお話ができました。さみしんぼうばんざい。
 幹部たちはまだ日本名をつけてもらっていません。まぁどれが誰なのかはバレバレだと思いますが。
 子幹部と兵部の出会いのお話の本編もいずれきちんと書いてみたいです。……原作でやってくれてもいいしね!


                  written by Yokoyama(kari) of hyoubutter 2010.08.07