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彼とセックスと僕の嘘 
 
- cat walk - 

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 先日の『皆本光一お見合い乱入事件』のせいで、パンドラの大人組はおおむね兵部に冷たい。特に葉を のぞく幹部二人は。
 葉としてはあれはあれで楽しかったのだが、呆れ返って黙ってしまった真木と、日本に戻って早々嘆息する紅葉を前に、なんとなく葉と兵部だけが孤立したよ うな雰囲気があったのは間違いない。
「ちぇっ」
「まだ拗ねてるのかい、葉」
 なんとなく口をついて出たぼやきを、ソファに座ってテレビを眺めていた兵部が聞きとめたらしい。
「拗ねてねーよ。つか全部アンタのせーじゃん、ボス」
 リビングにいるのは二人だけ。葉はふよふよと浮きながら兵部の後ろ側へと回り込み、首に腕を回した。
 特に驚く様子もなにもない兵部の銀糸の頭に、自分の額を当てて言う。
「させてよ、京介」
「……なんだよ急に」
 葉が小さい頃からの慣れ親しんだ呼び方をするのは、二人だけになった時の癖だ。
 そして、抱きつかれる形になった兵部が葉の行動を咎めないのは、今は他に誰もいないと知っているからである。リビングに入ってくるような者は誰も。
「いーじゃん、|真木≪マギー≫と紅葉は二人でしけこんじゃったんだしさ」
「いつのまにそんな下世話な子に育ったんだろうね、君は」
 軽くため息をつくも、葉の腕を振り払いはしない。
 真木と紅葉はホテル襲撃のフォローが終わっておらず、戻りは遅くなるとのことだし。ちなみに兵部は謹慎、葉はその見張り。
 ――でもこんなの、兵部がその気になって力で抜け出してしまえば監視もなにもない。
 兵部の始めた家族ごっこの延長が今も続いているだけだ。そして十数年来、紅葉も真木もそのルールから外れはしなかった。
 でも自分は違う。
 欲しいと感じたならば、相手が育ての親であろうと誰だろうと、それを伝えることに罪悪感を感じたりしない。腹が立ったと感じたなら、その相手がどれほど 兵部が大切に思っている少女達でも、やはり手を下すことに容赦はしないだろう。
「女の子には不便してないくせに」
 兵部がそんな話を出したのは一体誰からのリークだったのだろうか、それとも葉のことを|透視≪よ≫んだか。でも、いずれにせよ。
「それはそれ、これはこれ」
 小さい頃悪戯が過ぎた時、兵部によくつねられた耳の上側。兵部のそれを、懲らしめ るためでなく歯できつめに噛む。
「っ!――ちょっと、葉……っ」
 びくりと震えた肩を逃がさぬように抱いて、舌でことさら音を立てて兵部の耳を嬲 る。
 そこからは大した時間を要することなく、兵部は細く喘ぎ始めた。
「俺の部屋で、ね?連れてってよ、|瞬間移動≪テレポート≫でさ」
 耳から舌を離して、思い切って兵部の顎を掴んで自分の方を向けさせると。
「あ……」
 漆黒の瞳には羞恥と情欲。熱い吐息が葉に吹きかけられて、今にも自分に|伝染≪うつ≫ってきそうだ。
「したくないんなら、俺を置いて自分の部屋にいけばいいし」
 葉の言葉に苦く笑った兵部が、赤みがかった特徴的な髪ごと葉の頭を引き寄せて、二人の唇を合わせそうとする。
 薄く冷たい唇の感触まであと僅か、という時に、急に二人を残して世界が遠ざかる。
 兵部の|瞬間移動≪テレポート≫の後には、リビングではテレビだけが無人の空間に一方的に話し続けていた。

 こんな風に兵部からキスしてきた場合は別だけれど、絶対に自分からはキスだけはし ないと決め ている。
 一度自分にそれを許すと、ウッカリ止められなくなってしまいそうだから。なんて、絶対に言わないけれど。

 兵部の部屋のものには及ばないが、葉の部屋にもバスルームはある。ユニット式とはいえきちんとバス と洗い場の分かれているタイプだ。
 バタン、と何の前触れもなくそのドアを外側から開けたのは葉だ。
「京介、へーき?じゃない、かな」
 涼しい顔でシャツにジーンズ姿でずかずかと入り込んでくる。反対に、糸一本纏わぬなりでシャワーを浴びていた兵部が驚いて固まっている。
「お前、っ、突然開けるか、フツー?」
「俺の部屋だし」
 けろりとした表情で当たり前とばかりに言い放たれて、なんとなくため息をついた兵部は、そのまま背を向けてシャワーの続きを浴び始める。
「平気なわけないだろ、葉の馬鹿。こんな、くたくただし、つーか中に出しまくってるし、後始末が大変……――んッ!?」
 回された腕と抱かれた体に驚いて飛び上がりそうになる、ただ抱かれたなら兵部とて驚かない。さっきまでさんざん肌をあわせてきていたのだ。でも葉は。
「なに、お前、服汚れるって」
「濡れるだけだよ。別に俺の服だからどうしようが勝手じゃん」
 それはそう、なのだが。
 自分が全裸なのに、相手は服を着てて、しかもシャワーを浴びているというのは奇妙な感じだ。
 一方的に追いつめられているような。
 その上。
「ぅ、ぃやっん、よ、葉っ」
「後始末でしょ?」
 さっきまで兵部に快感を与えていた指が秘所をまさぐり、指をかけてくる。
「ぃ、いいっ、しなくていい、からっ……っ!」
「……変な京介」
 自分で文句を言っておきながら、いざそのとおりにすると途端に恥じてみせる。
 本当に、さっぱりわからない。
 もっと知りたい、だからこうして、時折ひそかに求めてみる。猫のように、足音もなく忍び寄って。
 でも葉には確信があった。
 これは自分だけの独りよがりじゃない。
 だって彼は待っていたはずなのだ。
 大切すぎて扱いに困ってしまうような誰かでも、大切にされすぎて自分を失ってしま うような誰かでもなく。もっとイージーで、その瞬間が過ぎたなら互いに忘れて しまっても何も損なわれないような、誰か。
 自分に何も強要しない、役割や責務を斟酌する必要もない、そんな相手を。
 きっと彼は待っていたはずなのだ――

 バスルームから出てくるとすでにいつものペースを取り返しているさまは、見事というべきか。葉もまた濡れた服とは別のものに着替えてこそいるが、ここま で完璧に日常に復帰できているとは思えない。
 兵部はまるで、そうまるで何もなかったかのように、いつもの学生服姿で、パンドラ首領の顔に戻る。そして葉に、ミッション遂行中のマッスルとパティの様 子を見に、アジトにしているマンションへ行くようにと指示を出した。しかも。
「今すぐぅ?」
 つい驚きと共に不満もぶちまけてしまう葉に、兵部は涼しい顔で頷いた。
「二人の仕事の首尾はどんな感じなのか、大丈夫そうでも念のため明日まで様子を見るためにマンションで待機してくれないかな。マッスルにもそう伝えて。パ ティは異議を唱えないだろうし」
 明日まで――今日の夜には真木も紅葉も戻ってくる。これは。
「もしかしてさ、俺を遠ざけたい?」
「何言ってんのさ」
 誤魔化されてやるのが大人なのかもしれない。でも。
 ここは食い下がってみせる方が、反応を試せるというものではないだろうか。
「誰か、俺と一緒なのを見られたら困る相手が――」
「こーら」
 いるんじゃない?と続けようとした言葉は、ぴん、と鼻の頭を指先で弾かれることで阻止される。
 こんな発言をするのはごくごくたまに、だからこの程度で済むけれど。詮索や緊張は本来、兵部はあまり好かない。
 いや、そうじゃない。
 兵部が葉に求めているのはそういうウェットな会話やヘビーな関係性ではないのだ。
「まぁ……」
 都合いい程度に求められ、ただ体だけを委ねたなら簡単に与えられる適度の快感。
 それのみをもたらし、かつ何の利害も発生しない――そんな『藤浦葉』を。
「……わかってたけどさ」
 苦笑いしながら誰に言うともなく発した言葉は、背を向けてしまった兵部の耳には届くことなく、するりと床にすべり落ちる。それは拾う者すらないままに、 いつまでもそこに蟠り続けた。

                                          <終>




   ■あとがき■

 「二人の時だけ呼び方が変 わるってどうなのよ?コテコテすぎない?」とか思った方いらっしゃったらスイマセン・・・。
 反省してます真木兵部サイトなのにこれはないって私もそう思いますともええそう全く思っていますけれどふと気付いたらこうなっていた的な感じみたいな うっかり真木のエロが成熟しちゃってるのでもっと若い感じが欲しかったというか若輩の葛藤が書いてみたかったというか出来心というかなんというか。
 ところで真木との間はどうなってるのか。多分この時空では真木と兵部はできてないと思い書いてます。でもできてる前提で読んでいただいても特にかまいま せん。続きはありませんのでどうぞお好きなように。
 たまにはテイストの違うものを楽しんでいただければ嬉しく思います。

                 
written by Yokoyama(kari) of hyoubutter 2010.01.29